一般社団法人 日本経済団体連合会
【春季労使交渉】
今年の春季労使交渉では、働き方改革と賃金引上げの2つが最重要課題である。2018年版経営労働政策特別委員会報告では、働き方改革について時間をかけて検討し、経済界としての考え方を示している。今次通常国会で働き方改革関連法案が提出される。とりわけ時間外労働の上限規制は労働基準法70年の歴史の中でも画期的な改正であり、働き方改革を進めるうえで非常に重要な論点である。国会での法案成立を待つことなく、労使で新たな規制への対応について徹底的に検討してもらいたい。
もう一つの重要テーマである賃金引上げについて、この4年間、月例賃金で2%・7000円台の賃上げを続けてきた。今年もこの賃上げのモメンタムを継続するとともに、さらに踏み込んだ賃金引き上げを実現することが特に重要である。安倍総理から期待を表明されたこともあり、「3%」という数字が注目されるが、これは象徴的な数字として示されたものと理解している。経団連として、それを意識はしているが、消費の活性化・経済の好循環に向けた様々な議論を重ねる中、一つの目安として「3%」という数字に言及している。安倍総理に言われたからということではない。これまで2%台の賃上げを実現してきたが、いまひとつ消費が活性化しない中、3%の賃上げが実現すれば、消費者の受け止め方もかなり変わる。こうした背景から、今年の経労委報告にはかなり踏み込んだ指針を盛り込んでいる。
賃金改定交渉の結果は各社の労使交渉次第であるが、昨今の企業業績を見れば、史上最高益を更新するなど、多くの企業が一昨年頃より増収増益の基調にある。企業の収益体質がここ2、3年で改善されていることは間違いない。色々議論があるところではあるが、企業の内部留保もひところに比べれば手厚くなっている。このように従来より上乗せして賃上げができる環境にある。ただ、繰り返し述べてきた通り、賃金決定はあくまで各社の労使交渉次第である。結果を今から予測することはできないし、予測するべきでもない。賃上げは、何か目標を打ち出して、それに向けて頑張るという性格のものではなく、各社の労使交渉の結果を集計したものである。「3%」についても一つの重要な指標ではあるが、あくまで目安であり必達目標ではない。
【長時間労働の是正】
かつて長時間労働が戦後日本の経済復興を支え、日本企業の競争力の源泉となっていたことは間違いない。月に150時間、200時間の残業をするのは当たり前という風潮すらあった。しかし、だからといって長時間労働を今も続けるべきかと言えば、そうではない。過去は過去のものとして、生産性を向上し、残業せずにより短い時間の中で成果を出すよう、働き方を変えていく必要がある。これが働き方改革の真髄である。欧米企業では、たとえ会議の途中でも、退社時間になれば帰る人が多いが、それで企業業績が悪いかと言うとそうではない。これは働き方が異なるのであり、日本企業としても良いところは取り入れていくべきである。これまでの慣習を変えるのは簡単なことではなく、大きな努力を要するが、働き方改革を契機として日本企業の働き方を変えていくことが重要である。残業代が減少する、中小企業は対応できない、といった切実な問題があることは承知しているが、労使で解を見出すことが求められている。
【高度プロフェッショナル制度】
高度プロフェッショナル制度は、従業員の処遇を時間ではなく、成果で評価する働き方であり、研究開発やマーケティングなどの専門的な職種を対象に柔軟な働き方の選択肢を提供するものである。連合の要望した内容通りに健康確保措置が強化されており、過重労働への歯止めもなされている。欧米では、時間にとらわれずに成果で仕事を評価するのが当たり前となっている。これは長時間労働の是正に逆行するものではなく、補完する施策である。時間にとらわれずに働くためには、生産性を向上することが求められる。なお、生産性が向上すれば、労使が協議し、それを何らかの形で従業員の処遇に還元していくことが必要である。
【日銀による2%物価目標】
2%物価目標について、日銀は達成時期を何度か後ろ倒ししている。2%という目標自体は適切なものだと理解している。達成時期は別として、現在の金融政策は適切であり、目標の是非について議論する段階ではない。また、この10年余りの間、供給が需要を上回り、需給ギャップはマイナスが続いたが、昨年これがプラスに転じた。今は供給よりも需要が上回っている状況であり、年末から今年にかけて、個人消費も活発化している。経済の環境としては物価が上がる方向にある。
【通常国会への期待】
多くの重要法案が提出される予定であるが、最重要課題は2017年度補正予算と2018年度予算の早期成立である。また、働き方改革関連法案についても、労使で時間をかけて検討し、合意した内容であり、これに沿って法律が成立することを期待している。経済界としては、IR実施法案にも関心がある。こうした重要法案が可及的速やかに審議され、政策が前に進むことを期待している。
【2025年万国博覧会誘致】
フランスが誘致レースから撤退するとの報道があることは承知しているが、まだフランス政府からの正式な発表はなく、きちんと確認する必要がある。フランスが撤退しようとしまいと、誘致を勝ち取るため、誘致活動を強力に推進し、11月のBIE総会までの約10カ月間、最大限の努力を続けていく。この姿勢に何ら変わりはない。