一般社団法人 日本経済団体連合会
【北海道経済】
北海道経済は全体として回復基調にある。特に個人消費は、百貨店、ドラッグストア、免税店の売り上げが好調であることを背景に拡大している。設備投資も先日の日銀短観では前年度比23%増となるなど、様々な面から地域経済の活性化が進んでいる。雇用についても、8月の有効求人倍率は前年同月より0.05ポイント上昇し、1.14倍となっている。北海道経済は確実に回復しており、そうした実感を持っている。
北海道経済の主力産業は観光と農業であり、引き続きこの二つの産業が北海道経済を牽引していくと思う。観光においては、インバウンドの増加が続き、大きなチャンスが到来している。これを逃すことなく、確固たるものとしていくためには、地域観光資源の磨き上げとともに、マーケティング、戦略立案、情報発信等が重要になる。同時に、北海道新幹線のさらなる活用が必要になる。
農業も同様に、近隣アジア諸国を中心とする人口・所得の増加、世界的な和食への関心の高まりなど、わが国農産物の輸出の好機が到来している。日本最大の食料供給基地である北海道は、そのポテンシャルを一層発揮し、農産物輸出のさらなる拡大に取り組む必要がある。北海道では、全国に先駆けてスマート農業の導入が進んでおり、こうした動きを一層加速させることで、生産基盤の強化など競争力強化に努めてほしい。
加えて、北海道が有する非常に大きな発展のポテンシャルを活かして、新産業の創出を促していくことも重要である。例えば、大樹町では宇宙産業をターゲットとした取り組みが進められている。宇宙産業のほかにも、水素産業などの種が育っており、こうした新産業の育成に戦略的に取り組むことが、さらなる経済発展の鍵となる。
【解散総選挙】
今度の総選挙は極めて重要な選挙だと認識している。現政権の安定した基盤が確保されるかどうかが主たる関心事であり、それが達成されることを期待している。これは経済界だけでなく、国全体にとって重要なことである。2009年の総選挙では、民主党が308議席をとって、政権交代が実現した。しかし、その後の3年4カ月の民主党政権の間、政治は混迷し、外交は破綻をきたし、経済は低迷した。日本にとって損失を被った時期だった。来る総選挙においては、有権者にはムード、劇場型ではなく、理念、政策の観点から投票してほしい。苦い経験を繰り返してはならない。
とりわけ、現在、わが国には重要課題が山積している。成長戦略、デフレ脱却・経済再生の完遂をはじめ、子ども・子育て支援に向けた人づくり革命、北朝鮮問題への対応、財政健全化、社会保障制度改革などについて、現政権の政策は信頼できる適切なものであり、その継続が重要である。また、痛みを伴う改革の実現にあたっては、安定的な政権基盤が不可欠である。日本にとって非常に大切な時期であり、安定政権のもとで強力に政策が推進されなければならない。
【野党再編】
一般論として、健全な民主主義を維持していくためには、建設的な議論を行う健全な野党が存在することが重要である。現在、政策や理念を軸に野党再編が進んでいると理解している。政策、理念を軸に野党再編が進み、国会等の場で健全な議論がなされることは歓迎すべきことであろう。選挙戦を通じて有権者に政策を明示し、理念、政策を基に議論を行ってもらいたい。
【アベノミクス】
5年間のアベノミクスを振り返ると、まずGDPは2012年から2017年にかけて約50兆円増え、企業収益も約26兆円拡大した。雇用環境については、失業率が4.3%から2.8%に低下、有効求人倍率は0.83から1.52に上昇するなど完全雇用の状態となっている。地方と国を合わせた税収は、消費税分を除くと約14兆円増えた。これらは明らかにアベノミクスの成果である。ただ、地方の隅々に行き届いておらず、成長率も1%台半ばに留まっている。いざなぎ超えの58カ月連続で景気が拡大しているとはいえ、いざなぎ景気の時に、10%程度の成長率を達成していたことと比べれば、足元の成長率は低い。経済界としてもアベノミクスの成果が十分とは見ておらず、引き続き成長戦略を加速して、地方への浸透を図らなければならないと考えている。アベノミクスの成果は成果として認めたうえで、どこを補足し、加速するのかを判断することが重要である。経済界としては、アベノミクスの進化、加速、ステップアップを期待している。
衆院選における自民党の政権公約の2番目に、アベノミクスの加速が位置づけられた。成長戦略については、経済界が経済財政諮問会議、未来投資会議等の場で主張してきたことを全面的に取り入れてくれたと認識している。具体的には、未来投資戦略2017や官民戦略プロジェクト10をベースに成長戦略が策定されている。AI、ロボットなどの先端技術を駆使した未来社会の構築、社会的課題の解決などSociety 5.0に向けた政策が打ち出されており、アベノミクスの加速を支持したい。
【賃金引上げ】
賃金引上げについて、過去10年ほどを振り返れば、ベアについてはほとんど実施されず、実施されたとしても低い水準であった。月例賃金の引上げは3000円から5000円程度の低水準、ほぼ定昇のみという状況であった。しかし、2014年以降、平均して2.3%、7500円の月例賃金の引上げが実現し、ボーナスも高水準での妥結が続いている。過去4年間で確実に賃金は引上げられている。大企業だけではなく、中小企業においても今年は大企業を上回る水準で賃金が上昇している。しかし、期待された個人消費が伸びたかというと、そうではなく、賃金引上げが個人消費になかなか反映されない。これは賃金引上げ分の半分程度が社会保険料などで減殺されたこと、また、消費性向の高い30代、40代の賃金引上げ率が平均引上げ率を下回ること、そして、一番大きいのは将来不安であり、とりわけ30代、40代の子育て世帯は根強い将来不安を抱えている。賃金の引上げ分が教育資金等に備えた貯蓄に回り、肝心の消費に回っていない。
経済界としては、引き続き賃金引上げのモメンタムを継続させていくという方向性を共有している。ただ、賃金引上げだけで消費が改善するわけではなく、社会保険料による減殺への対応、消費性向の高い世代への手厚い引上げ、将来不安の払拭に向けた社会保障制度の充実など、政策を総動員することが必要である。