一般社団法人 日本経済団体連合会
【解散総選挙】
安倍総理が自民党役員会で衆議院の解散を表明した。これまでの報道などを見る限り、今度の解散総選挙は、アベノミクスのこれまでの実績や今後、加速していくことの是非、社会保障制度の充実、北朝鮮問題への対応、自衛隊の位置づけをはじめとする憲法改正などについて、国民の信を問うとされているようである。いずれも今の政局の中で時宜を得た争点である。アベノミクスについては、これまで5年間進めてきた中で、大きな成果を上げているが、消費や物価、潜在成長率などまだまだ不十分な面もある。それらについて政策を示し、選挙戦を通じて政策論議を行ってもらいたい。
解散の時期について、世論調査では、今ではなくても良いという意見が多いことは承知している。ただ、解散は総理の専権事項であり、総合的に考えて判断されたのだと思う。
【消費増税と財政健全化】
2019年10月に予定されている消費税率引き上げが計画通りに実施されるのであれば、経済界としては歓迎したい。2012年の3党合意の内容が変わるとしても、幼児教育の無償化や社会保障制度の充実に向けた安定財源が確保されることになる。計画通りの消費増税により、社会保障制度の充実と財政健全化の方向性が強化されることは、経済界の考えとも軌を一にするものである。他方、2020年度のPB黒字化目標については堅持すべきである。財政再建は、消費増税だけでなく、歳出改革、歳入改革、経済成長の3本柱で達成されるものである。消費増税分の一部が社会保障制度の充実に向けた「人づくり革命」に活用されるとしても、2020年度のPB黒字化という目標は総合的な形で堅持してもらいたい。
少子高齢化に伴い、社会保障費が増大するなか、経団連はかねてより消費税率を10%台後半まで引き上げなければ、社会保障制度の健全な運営と持続性の確保がままならないと提言している。消費税の引き上げが困難であることは承知しているが、欧州諸国では20%台の税率が当たり前となっている。社会保障制度の持続性確保のためには、10%よりさらに引き上げる必要があり、経済界としてはこの考えを引き続き主張していく。
【アベノミクスへの評価】
アベノミクスについて、総合的には大きな成果を上げていると評価することができる。20年間、横ばいであったGDPは500兆円を大きく超えている。税収は消費税引き上げ分を除いても約14兆円増え、企業収益も拡大し、雇用統計の数値は大幅に改善している。数多くの経済統計が改善しており、これは評価すべきである。
外交に関しても、日EU EPAが大枠合意となり、TPPについても、米国の離脱はあったものの、いわゆるTPP11を日本が主導するなど、地域間の自由貿易の体制が整いつつある。日本の世界経済、国際政治におけるプレゼンスは高まっており、これは安倍総理の外交政策の大きな成果であり、評価すべきである。
ただし、現状の経済成長率は1.5%程度にとどまり、実質2%・名目3%の経済成長目標は未達である。2%の物価目標も達成できていない。デフレではない状態を作り出すことはできたが、デフレ脱却宣言はいまだできておらず、アベノミクスの総仕上げが必要である。今度の選挙戦を通じて、是非、それに向けた政策を打ち出し、アベノミクスを完成させてもらいたい。
【働き方改革関連法案】
解散総選挙となれば、当初、予定していた審議スケジュールが変わり、関連法案の成立が遅れることは確かである。ただ、経済界としては、高度プロフェッショナル制度をはじめとする労基法改正案が早期に成立することを期待している。
【政治との関係】
山積する政策課題を前に進めていくためには、自民党を中心とする与党の体制ならびに安定政権が維持されることが重要である。経済界としては、自由主義経済を柱とする経済政策、企業活動を促進する政策を推進する政党を支持する。
二大政党制という言い方を私はこれまでしたことはないが、国政において政権担当能力・責任能力を持つ健全な野党が存在し、与党の政策に対峙していくのが健全な政治の姿であると思う。与党の政策を牽制し、提言していく野党が存在することは歓迎すべきであろう。
【希望の党】
小池都知事が希望の党を立ち上げ、その党首に就くことについては、大阪での例もあり、異例なことではない。東京都には多くの課題が山積し、何より2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催も控えている。都知事の職と党首の役割をどう遂行していくのか、見守っていきたい。
【森友学園・加計学園を巡る問題】
森友問題、加計問題を巡る問題について、先の閉会中審査において、安倍総理が出席し、みずからの言葉で反省を示すとともに、きちんとした説明がなされたと認識している。ただ、国民の間では説明が不十分であるという意見も多い。政府には、この点を真摯に受け止め、国民の理解を得られるよう、引き続き説明を行ってもらいたい。
【憲法問題】
北朝鮮の脅威が存在する中、自衛隊のあり方を憲法に明記することについては、国民の間で一定の理解は得られているのではないか。実際、憲法改正について、賛成が過半となる世論調査も見られる。経済界としては、憲法改正も重要であるが、経済を最優先としたうえで、取り組んでほしいと一貫して主張しており、この姿勢は変わるものではない。