一般社団法人 日本経済団体連合会
【トランプ政権】
1月20日に発足したトランプ新政権は、矢継ぎ早に大統領令を発令し、選挙中の公約を実行に移している。どのような政策が打ち出されてくるのか、引き続き冷静に見守りたい。こうした点を含め、トランプ政権に対しては、期待と懸念が交錯しているような状況である。
日本経済への影響について、トランプ大統領が進めようとしている規制緩和、法人税減税、インフラ投資をはじめとする産業促進的な政策は、米国経済の拡大に寄与することは間違いない。米国経済が拡大し、世界経済の牽引役としての役割を果たすようになれば、日本経済にとっても追い風になり、景気回復の足取りを強めていくことが期待される。
一点留意しなければならないのは、保護主義的な動きである。「自国産業の保護こそが素晴らしい繁栄と強さにつながる」と発言しているが、これを文字通り解釈すれば懸念を感じざるをえない。保護主義は世界経済がこれまで目指してきた持続的な経済成長に反する方向である。具体的な政策としても、TPPからの離脱、NAFTAの見直しを表明している。TPPについては、米国にとっても安全保障や経済など多くの面でプラスの効果があり、そうした点を理解し、判断してもらいたい。安倍総理も粘り強く働きかけていくと発言しており、経済界としても諦めることなく、連邦政府や州政府、米国経済界に対して、TPPの経済的、戦略的意義をきちんと発信していく。NAFTAについては、仮に無関税措置を含めて見直すとなれば、北米で構築しているサプライチェーンの前提が変わり、日本経済に非常に大きな影響を及ぼすことになる。これについても引き続き、注意深く見守っていく。
トランプ大統領は、移民、難民の受け入れ制限を発令し、世界各国でさまざまな反響が起きている。米国の安全を守る一環とのことだが、情報収集をしながら、関心を持って見守っていく。他方、米国は、世界中から多様な才能を集めて、イノベーションにつなげ、国の活力を生み出している。移民政策は米国経済の強さの源泉と言え、トランプ大統領もその点は認めているのではないか。
来る日米首脳会談で重要なことは、日米の同盟関係の重要性とその継続性を再確認することである。日米は基本的な価値観を共有する大事なパートナーであることを改めて確認してもらいたい。自動車産業をめぐる一連のトランプ大統領の発言に関して、日本企業の米国における事業活動の実態を正しく理解してもらう必要がある。トランプ大統領は、1980年代の日米貿易摩擦の際の認識を基に発言しているとの見方もあり、具体的なデータを示して情報発信していくことが重要である。例えば、米国市場の日本車の70%は米国製であり、輸入は30%に過ぎない。また、日本の自動車関連企業だけで米国で約150万人の雇用を創出している。そうした実態をしっかり訴えていく必要がある。加えて、日本市場の乗用車・トラックへの関税はゼロであり、非関税障壁も改善され、もはや存在しない。米国車が日本で売れないのは消費者の選択の結果である。安倍総理にはそうした実態をきちんと伝えてほしい。また、トランプ大統領が言及している二国間の通商交渉について、安倍総理はその可能性を排除しないと発言する一方、TPPについても諦めないと明言している。経済界としては、二国間交渉についてはまだ具体的にどういう形が良いのか言える段階ではない。TPPはアジア太平洋地域の成長を担保するものであり、経済的、戦略的な意義もある。政府にはTPPを最優先に考えてもらいたい。
【関西経済】
関西経済の足元の状況は、全体としては緩やかながら回復している。個人消費は底堅く、生産、設備投資は全国平均より高い水準で増加基調にある。雇用情勢も改善する方向にあり、11月の有効求人倍率は1.30倍となり、3カ月連続で上昇している。
今後の成長戦略の柱は「健康・医療」と「観光」であり、この二つが成長のエンジンとして期待されている。関西には、医薬品・医療機器メーカー、大学・研究機関が集積し、強い産業基盤があるほか、介護ロボットや食品など、健康・医療に関連する企業が集積しており、イノベーション創出のポテンシャルが高い。この分野において先端的な役割を果たし、日本全体の牽引役になってもらいたい。観光についても、依然として訪日客数の勢いは衰えておらず、ホテル等も高い稼働率が続いている。大阪、京都、神戸、奈良などの豊富な観光資源を鑑みれば、より一層の飛躍が期待される。魅力ある観光ルートの形成や戦略的な観光資源の整備など、世界一級の観光地としての経営戦略を策定・実行していくことが重要である。この二本柱で関西地区の成長を牽引していってほしい。
このほか関西経済をめぐっては、リニア中央新幹線の大阪までの早期延伸、北陸新幹線の大阪延伸の課題がある。これらは関西経済にとどまらず、日本経済全体の成長エンジンとなり得るものであり、オールジャパンで推進していくことが求められる。
【大阪万博誘致】
2019年のラグビーW杯、2020年東京オリンピック・パラリンピック、2021年に関西マスターズゲームズに続いて、2025年に大阪万博が開催されれば、観光の振興と経済成長の推進につながり、意義のあるものだと捉えている。関西経済界が大変な熱意をもって、招致に向けて立ち上がり、決断されたことに敬意を表したい。政府も昨年12月に経団連の古賀副会長を座長とする検討会を立ち上げ、テーマや理念、事業に関する議論を進めているところであり、3月にも報告書がまとまり、閣議了解を経て正式に立候補することになると承知している。誘致に向けては、パリも立候補しており、大阪が立候補するからには、勝ち抜かなくてはならない。オールジャパンの推進体制を作り、招致を勝ち取る必要がある。経団連としても、さまざまなかたちで応援し、後押ししていく。