一般社団法人 日本経済団体連合会
【働き方改革】
経済界としても、安倍内閣と同様に「働き方改革」を最大のチャレンジの一つとして認識している。とりわけ長時間労働の是正を重要課題として捉えている。経団連では、今年を働き方・休み方改革に向けた集中取組年に位置づけ、経済4団体(経団連、日本商工会議所、経済同友会、全国中小企業団体中央会)をはじめ62団体が、「経営トップによる働き方改革宣言」を採択した。企業によるこうした取り組みは初めてであり、経営トップ自らが意識を改革することで、長時間を前提とする働き方など日本の職場環境や企業風土を変えていきたい。政府と一体となって取り組んでいく。
同一労働同一賃金の実現について、経団連は7月に提言を取りまとめた。この中で、日本特有の雇用慣行に十分留意しつつ、不合理な待遇差を是正することが重要であると主張している。例えば、欧州では、原則として単純に同じ労働であれば同じ賃金となるが、日本の場合、ある一時点で同じ労働であったとしても、賃金は将来的な役割や仕事への貢献に対する期待などを反映しており、これをどう評価するかが問題となる。これが均衡待遇と呼ばれる日本独特の雇用慣行である。こうした雇用慣行はわが国産業の競争力の源泉であり、尊重しなくてはならない。正社員の待遇を下げるのではなく、正規化や賃金、手当等により非正規社員の処遇を改善することで、不合理な賃金格差の是正に取り組んでいく必要がある。
現行の36協定では、無制限に残業できる枠組みとなっており、上限規制を含めて見直しを行う方向性は間違っていない。ただし、見直しに当たっては、労働者の保護と業務の継続性という二つの観点から検討する必要がある。業務が滞るようなことになってはいけない。また、業種による差が存在し、例えば運転手や医療従事者には長時間労働が多い。加えて、予算策定の時期や新製品開発の山場など仕事には繁忙期・閑散期の波がある。こうした実態を踏まえた形で、上限のあり方について議論を行なう必要がある。これを無視して、一律的な決め方をしてしまうと、経済の実態に大きな影響が出る。
【臨時国会における重要課題】
臨時国会が開会した。多くの課題が山積する中、重要法案の成立を期待している。安倍総理も所信表明において、目前の課題から逃れることなく、困難な課題であっても挑戦・チャレンジし、建設的な議論を通じて結果を出していくと表明された。是非、そうなるよう期待したい。具体的には、第二次補正予算の成立である。また、TPPについても、必ず承認してもらいたい。特に、TPPは、米国大統領選の中、トランプ候補、クリントン候補ともに反対・消極的な姿勢を示しており、トランプ候補は「撤回」、クリントン候補は「再交渉」と発言している。新政権へ批准プロセスが引き継がれると、TPPの成立が難しくなることが予想されるため、現政権中に米国議会で承認されることを強く期待している。オバマ大統領も自身の任期中に承認させるという強い意志を示しており、日本としても早く承認し、米国を後押ししていくことが重要である。
補正予算とTPPは別格であり、必ず通してほしい。加えて、消費増税が延期になったことに伴う関連法案、労働基準法改正案など重要法案の確実な成立を期待したい。
【高度プロフェッショナル制度】
労働基準法改正案に盛り込まれた高度プロフェッショナル制度は、賃金を時間ではなく成果で評価する枠組みである。これは、長時間労働の是正や女性の活躍推進にも資するものであり、働き方改革と矛盾しない。高度プロフェッショナル制度は欧米では一般的な制度であり、研究開発やマーケティングに携わる労働者にとって、時間ではなく成果で評価される制度の方が働きやすくなる。自由な裁量で働く環境や制度を作ることは働き方改革にも大きなプラスになる。懸念される無制限に働くことへの歯止めをかける仕組みも盛り込まれており、新しい働き方のスタイルとして導入を期待したい。
【日銀の金融政策】
先週、日銀が発表した新たな政策はマイナス金利の負の側面を是正するとともに、金融緩和への強いコミットメントを示すものである。全体としては、2%超の物価目標への期待をより強固にするものとして評価したい。ただ、経済成長は金融政策だけではなく、成長戦略と相俟って実現可能となるものである。資金調達の環境が好転する中、企業が積極的な事業展開を行い、成長戦略を推進していくことが重要である。
金融政策の効果を高めるためにも、企業、家計、市場参加者など各経済主体の間で、日銀の政策意図への理解を深めることが重要であり、日銀には市場との対話を含めた政策コミュニケーションを強化してもらいたい。
今はあらゆる政策を動員して、デフレ脱却・経済再生を進めるときであり、今回の日銀の決定は金融政策として、取りうる最善のものであると評価している。一方、国債の増発による財政規律への影響についても、しっかり注視していく必要がある。
【高速増殖炉もんじゅ】
今後ともわが国が原子力の活用を進めるとともに、世界における原子力の平和利用に貢献していく観点から、核燃料サイクルの確立に向けた取り組みを進めていくべきだと考えている。もんじゅについては、廃炉を含めた抜本的な検討を進めていくことになり、関係閣僚、電力会社やメーカーを交えた検討が行われ、年内に方向性が示される。新たに設置された会議体の中で高速増殖炉研究の方向性を決める必要がある。国際的な共同研究、共同開発を含めて、研究開発を続けていくべきと考える。
【東京電力改革・1F問題委員会の設置】
今回、委員会の発足にあたり、私からは小野寺未来産業・技術委員長を推薦した。委員会では原発事故の収束、福島の復興、東京電力の経営改革の3つが大きな課題になる。被災者の救済、福島第一原発の廃炉促進のための制度改革を東電の経営改革と合わせて議論してほしい。
【豊洲市場への移転問題】
東京都の小池知事は、都政の透明化、情報公開、説明責任、また都民の食の安全や安心な生活を主張されている。小池知事が言うように、安全性に係る問題、コストに係る問題など、情報公開を徹底していくことが重要であり、豊洲市場への移転についても都民が安心し、納得する形で調査してほしい。一方、この問題は東京オリンピック・パラリンピックにも影響することから、いつまでも時間をかけるわけにはいかない。都民や事業者など関係者の理解を深めながら、移転問題の方向性が早期に明確に示されることを期待したい。