一般社団法人 日本経済団体連合会
環境委員会
資源・エネルギー対策委員会
今般提示されたGX2040ビジョン(案)は、エネルギーを取り巻く現下の情勢を踏まえて更新された第7次エネルギー基本計画(案)ならびに地球温暖化対策計画(案)と一体的に、カーボンニュートラルの実現とわが国の経済成長・産業競争力強化を両立させようとする内容であり、総じて評価できる。本案に示された方向性のもと、GX市場の創造やクリーンエネルギーが豊富な地域への産業集積の加速、成長に資する排出量取引制度の詳細設計等、GX政策のさらなる具体化が進むことを期待する。
そのうえで、個別の点について下記の通り意見を述べる。
【01】
[該当箇所]
2.(2) 2) 国内外の学術機関等と提携したイノベーションの社会実装や政策協調
(p.5, l.103-104)
[意見]
投資促進に加えて貿易の促進や投資障壁の撤廃に向け、交渉の推進や(EPAに基づく)ビジネス環境の整備に関する委員会の活用も明記すべきである。
例えば、「人口が増加する国々と比較して内需が相対的に拡大しにくい中、日本のGX製品等が世界の市場で存在感を持つために、貿易・投資促進策・障壁の撤廃に向けた交渉やビジネス環境の整備に関する委員会の積極的活用に加え、」と追記することが考えられる。
[理由]
外国市場で製品等が需要されるためには、現地への投資促進のみならず、日本からの輸出や貿易・投資障壁撤廃に向けた交渉等が必要であるため。
【02】
[該当箇所]
2.(2) 4)GX産業につながる市場創造(p.6-9)
[意見]
GX投資の予見性を高めるためにGX市場の創造が不可欠である。本案に盛り込まれているGX価値の見える化や需要喚起策などの施策に加え、こうした各種規制・制度的措置の導入時期を明記した具体的なロードマップを策定すべきである。
[理由]
上記ロードマップを示すことで、GX製品・サービスの供給側・需要側共に、中長期的に最適な活動・取組を判断しやすくなる。
【03】
[該当箇所]
2.(2) 4) GX産業につながる市場創造(p.6-9)
[意見]
GX製品の生産に伴うコスト増が確実に製品価格に反映されるとともに、それを購入する消費者がコストアップを受け入れることで、社会全体で公平かつ公正にコストを負担できるよう、政府は啓発活動に取り組むべきである。
[理由]
GX製品の生産には巨額投資・コストの上昇を伴う一方で、同製品が社会に普及するためには、かかるコストが製品価格に確実に転嫁される必要があるため。
【04】
[該当箇所]
2.(2) 4) ③ア)公共調達の推進(p.7, l.161-165)
[意見]
「政府が自ら率先してグリーンスチールやグリーンケミカルなどのGX製品をはじめとした先端的な環境物品・サービスを調達・・・」と、GX製品の具体例を明記すべきである。
[理由]
GX市場創造のための初期需要創出にあたっては、GX製品が公共調達によって需要されることが極めて重要である。グリーンスチールやグリーンケミカルといった具体例を明示することで、事業者にとっての投資予見性の向上に繋がるため。
【05】
[該当箇所]
2.(2) 4) ③イ)民間企業の調達促進(p.8, l.175-176)
[意見]
当該文章を、「GXリーグにおいて創設された『GX率先実行宣言』を活用し、宣言を行った企業への優遇措置などを通じて、企業による主体的な取組を進める」に改めるべきである。
[理由]
GX市場の創造には、製品・サービスの供給側へのアプローチだけでなく、GX需要の創出も不可欠である。「GX率先実行宣言」は、GX需要創出に積極的に関与する事業者を評価する枠組みであり、そもそも本宣言に多くの事業者が参画するためにはインセンティブを設けることが重要である。
なお、「GX率先実行宣言について」(2024年12月 GXリーグ事務局)3頁に、「宣言を行った企業への政府による優遇措置などを通じて 宣言の輪を拡大し、GX製品の市場形成に向けた機運を醸成していく」と明記されている。
【06】
[該当箇所]
3.(1) 1) ② ア) 政策対応の必要性と対応の方向性(p.12, l.304-322)
[意見]
国内におけるクリーンエネルギー利用について海外でも訴求可能となるよう、外交戦略として環境整備に取り組む方針を盛り込むべきである。例えばEPAやAZECの活用等により、EU、アジア諸国をはじめ諸外国との間で再生可能エネルギー証明やCFP計算ルールの相互承認やルール整備に向けた協議を進めることなどが求められる。
[理由]
グローバル企業に国内クリーンエネルギーを利用するインセンティブを与えるためには、そのメリットをグローバルに享受できることが重要であるため。
【07】
[該当箇所]
3.(1) 2) ② DC整備を加速するための政策的支援の在り方(p.16, l.440-442)
[意見]
既に脱炭素電源を含む電力インフラが立地している場所についても、将来的に立地する見込みがある場所と同様に、近傍へのデータセンター立地誘導の検討対象とすべきである。
[理由]
既存の電力インフラの近傍へのデータセンター立地も、新設が見込まれるケースと同様に電力インフラの効率的な整備に資するため。
【08】
[該当箇所]
5.(1) 1) 基本的考え方(p.22, l.612-623)
[意見]
本段落に示された情勢認識と考え方全般に賛同する。提示された案の記述を維持すべきである。
とりわけ、「特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスの取れた電源構成を目指していく」との前提のもと、「再生可能エネルギーと原子力を二項対立として捉えず、ともに最大限活用していくことが極めて重要」との記述が重要である。
[理由]
わが国は天然資源に乏しい島国であり、化石燃料の埋蔵に乏しいのみならず、太陽光・風力の大幅拡大や周辺国との重層的な国際連系線ネットワークの構築にも困難がある。一方で、人口密度が高く工業化が進んだわが国は、国土面積に比して大きなエネルギー需要を有し、また工業製品の品質を担保するための質の高い電力を必要としている。こうした厳しい供給制約を踏まえれば、多様なエネルギー源のベストミックスを追求することが必要不可欠である。
こうした前提のもと、特に脱炭素電源に関しては、低コスト・安定供給・事業規律の3点を満たした再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、3Eのバランスに優れた原子力を最大限活用していくことが欠かせない。
【09】
[該当箇所]
5.(1) 4) 原子力の活用(p.25, l.709-714)
[意見]
次世代革新炉の開発・設置に関し、廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での建て替えを対象として具体化を進めていくとの方針は、重要な前進であり、評価する。
さらに言えば、安全性の確保や地元の理解を大前提とすれば、事業者やサイトに関してこのような追加要件を課す合理的必要性はなく、追加要件を排除することを検討することが望ましい。
[理由]
今後、脱炭素電源に対するニーズが拡大していく見通しの中、既存の原子力発電所の設備容量が2040年から急減すること、新規建設には十数年を要すること等を踏まえれば、次世代革新炉への円滑な建て替えを進めるうえでは、その具体化を早急に実現する必要がある。
なお、事業者やサイトに関して追加要件を課すことなく具体化を進めるとしても、安全性を確保し、地元の理解を得ることが設置の大前提である。また、わが国全体として「特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスのとれた電源構成を目指していく」(p.22, l.615-616)という方針を掲げる以上、原子力への過度な依存につながるという懸念はあたらない。
経団連がエネルギー政策に関心の高い会員企業の役員クラスを対象に実施した「電力問題に関するアンケート」(2024年10月15日公表)においては、設問回答企業数155社のうち、68%の企業(106社)が再稼働に加え、リプレース・新増設を進める方向で検討すべきと回答した。
【10】
[該当箇所]
5.(1) 5) 火力発電とその脱炭素化(p.25, l.718-740)
[意見]
本項に示された火力発電に係る対応方針、非効率な石炭火力を中心に発電量(kWh)を減らしていくとともに、とりわけ安定供給に必要な設備容量(kW)を維持・確保していくとの方向性に賛同する。
[理由]
第7次エネルギー基本計画(案)でも確認されている通り、わが国のエネルギー政策の要諦はS+3Eである。現状、火力が供給力、調整力、慣性力・同期化力等を総合的に提供し、電力システムにおいて重要な役割を担っていること、また、火力に相当程度依存している現状を踏まえれば、カーボンニュートラルの実現に向け、火力依存度の低減と火力の低炭素化・ゼロエミッション化に取り組むうえでは、時間軸を持って円滑なトランジションを図ることが欠かせない。
【11】
[該当箇所]
5.(1) 6) CN実現に向けた電力の事業環境整備・市場整備(p.26, l.742-763)
[意見]
脱炭素電源の投資回収の予見性を高める制度措置や市場環境整備、ファイナンス円滑化等に取り組むことに賛同する。
[理由]
わが国のGXに欠かせない大型脱炭素電源等の整備には、長期にわたる多額の投資が求められるが、民間の事業者・金融機関のみでのリスクテイクには限界があるため。
【12】
[該当箇所]
5.(5) サーキュラーエコノミーとGX(p.30, l.863~865)
[意見]
再生材利用に関する計画策定や定期報告の法的義務付けに賛同する。そのうえで、その趣旨を明確化する観点から、以下のような表現に修正すべきである。
「再生材利用に関する計画策定や定期報告を法的に義務づけ、企業のPDCAサイクルを踏まえた主体的取組を促すことにより、循環資源の需要創出を促進する」
[理由]
設計・製造段階における再生材利用については、製品ごとに、求められる質や必要となる量が異なる。このため、循環資源の需要創出を促進する観点からは、企業が自社に最適化した計画を検討・策定し、PDCAサイクルを回しながら自社の取組みを主体的に充実していくことが望ましい。計画策定や定期報告の法的義務付けの意義は、事業者による主体的取組の促進であり、関係業界・企業の理解を得るうえでも、そのことを明記すべきであるため。
【13】
[該当箇所]
6.(2) 1) ② ア) 制度対象について(p.38, l.1130-1134)
[意見]
対象事業者が密接な関係にある子会社等を含めて報告等の制度対応を行うことを可能とするための認定制度を設けることに賛同する。移行計画への対応も含め、一体的に対応可能な仕組みとすべきである。
そのうえで、報告等の制度対応を行う法人について、必ずしも自身が排出量取引制度の対象でない法人が、制度対象となる子会社等の制度対応を行うことも可能とすべきである。
[理由]
このような認定制度は、脱炭素化を経営課題として捉えてグループ単位で取り組む事業者が効率的・効果的に排出量取引制度に対応することを可能にすると考える。
そのうえで、企業によっては、法人単位の排出量が少ない親会社(持株会社等)が複数の子会社等の制度対応をまとめて行うことで、その他の環境開示等と同一の態勢で対応でき効率的・効果的と考えられることから、そうした対応方法を排除しない形で認定制度を設計することが望ましい。
【14】
[該当箇所]
6.(2) 1) ② イ) ⅰ) 排出量の算定・報告(p.39, l.1152-1159)
[意見]
事業所の規模に応じて保証の水準に段差を設ける方針に賛同する。将来的に厳格な水準の保証を求める対象を拡大していくにあたっては、保証機関や制度対象事業者における体制整備の状況のみならず、対象事業者の負担も十分考慮のうえ、慎重に検討を進めるべきである。
[理由]
法人単位で排出量を管理する今回の制度案では、対象事業者が地方に置いているバックオフィス等、排出量の少ない事業所も制度対象として捕捉されることとなる。こうした対象も含め一律で高い水準の保証を求める場合、保証機関の体制が整わずに制度の適正な運用が困難となるのみならず、対象事業者に過大な費用・手続き負担を課し、成長と脱炭素化の両立というGXの大前提を崩すことにもなりかねないため。
【15】
[該当箇所]
6.(2) 1) ② ウ) ⅱ) その他割当を行う際に勘案すべき事情についての基準
(p.41-42, l.1216-1240)
[意見]
排出枠の割当に関し、過去の削減努力、カーボンリーケージの防止、GXに関する研究開発投資を勘案する方針に賛同する。
[理由]
これら3点を適切に勘案した制度とすることは、排出量取引制度を公正・公平な、GXの推進に繋がる制度とするために不可欠と考えるため。
【16】
[該当箇所]
6.(2) 1) ③ イ) 既存制度との関係整理(p.44, l.1307-1317)
[意見]
既存制度との関係整理は重要であり、本案に記載の通り対応を進めるべきである。
省エネ法・温対法との関係においては、可能な限りの手続きの簡素化を行うべきである。
高度化法との関係では、電力需要家にとっては、①最終需要家が二重の負担を負わないこと ②小売事業者や需要家といった各主体が宣言できる環境価値と応分の負担とが対応関係にあること――の2点が重要である。排出量取引制度との間には、発電事業者と小売事業者、CO2排出量と非化石電源比率といったターゲットの違いが存在するが、両制度の外形的な部分だけでなく、本案にも記載の通り「政策効果を踏まえた関係整理を行う」ことが求められる。
条例に基づく地方自治体の排出量取引制度との関係では、事業者に二重負担や過大な手続き負担が生じることが懸念される。自治体との対話を進めることが重要である。
[理由]
既存制度との関係整理が十分になされなければ、事業者の制度対応コストが必要以上に膨張し社会的損失を生じる、あるいは海外へのカーボンリーケージに繋がるといったおそれがある。また、排出量取引制度の対象となるか否かによる事業者負担の差が過度に大きい場合、企業間の公平性を損なうことになる。