経団連は12月9日、「FUTURE DESIGN 2040『成長と分配の好循環』~公正・公平で持続可能な社会を目指して」(FD2040)を公表した。連載第7回は多様な働き方について紹介する。
■ 目指すべき姿
リカレント教育等の充実と円滑な労働移動の推進・定着により、日本全体の生産性を先進諸国トップクラスに引き上げる。また、適度な物価上昇を前提に、実質賃金と個人所得がプラスで推移する好循環を実現する。
多くの働き手がスキルアップに励み、自身の希望するキャリアを主体的に形成し、実現できている。また、DEI(Diversity, Equity, Inclusion)が浸透し、多様な人材が、時間や場所にとらわれず、エンゲージメント高く働き、イノベーションを継続的に創出し、付加価値が増大する。
■ 現状認識

(図表のクリックで拡大表示)
人口減少による労働力不足が深刻化しており、特に社会活動を支えるエッセンシャルワーカーの確保が喫緊の課題である。また外国人について、2040年に政府が目標とするGDPを達成するためには、現行の外国人受け入れ方式では約97万人不足するとの試算(国際協力機構〈JICA〉)もある。
ジェンダーの観点からは、企業における女性役員比率の向上が課題である。あわせて、共働き世帯と専業主婦世帯の割合は1990年代後半に逆転し、2023年には共働き世帯が全体の70%強となるなど、働き方や家族形成に対する価値観が多様化し、世帯構造も変容している(図表参照)。
生成AIの普及等の技術革新が労働需給のみならず産業構造、働き方の多様化に大きな影響を及ぼす可能性がある。こうしたなか、社内外の労働移動に適した制度整備や人的資本の蓄積・アップデート、画一的な時間管理・評価を前提とした現在の労働時間法制の見直しも重要な課題である。
■ 具体施策(1)~円滑な労働移動の推進・定着
生成AI等のデジタル技術を活用した雇用のマッチング機能の強化・高度化が重要であり、職業安定法等についても実態にかなった形で適宜整備する必要がある。また雇用保険制度について、早期再就職へのインセンティブ付与を重視した制度へと改革し、円滑な労働移動に適した雇用のセーフティーネットへの移行を目指すべきである。さらに企業には、ジョブ型雇用の検討・導入を含む「自社型雇用システム」の確立と不断の見直しも求められる。
■ 具体施策(2)~多様な人材の活躍推進の加速
1.高齢者
能力と経験を備えた高齢者のさらなる活躍推進が重要である。高齢社員それぞれに適した職務・役割の設定・見直し等が必須となる。加えて、定年年齢の引き上げや、定年・役職定年制の廃止を検討することが望まれる。
2.若年者
若年者の就労ニーズを踏まえた採用方法の多様化や、働き手の主体的なキャリア形成支援を行う。その他、若年社員を含む優秀な社員を積極的に昇進・登用できるよう人事制度の見直しが求められる。
■ 具体施策(3)~ジェンダーバイアスのない社会づくり
ジェンダーバイアス(性別役割分担意識)の払拭や、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)の解消に向けた取り組みが不可欠である。企業においては、ジェンダーに関係なく、キャリアを継続して成長できる職場づくりが重要となる。また、企業経営の危機への強靭性を高める観点からも、多様性を意識したタレントパイプライン(組織内での昇進の経路や仕組み)の強化が不可欠である。
■ 具体施策(4)~外国人材の活躍推進
国際的な人材獲得競争が激化するなかでは、有為な外国人材が日本で働くことを選び、活躍できる環境整備が欠かせず、優秀な人材を戦略的に「誘致する」という発想が求められる。このためには、外国人政策に関する基本理念・基本法の制定、データに基づき政策を企画・立案する司令塔の設置によって、出入国・在留管理、雇用管理、社会統合等のあり方を明確にすることが求められる。また、高度人材、現場人材、留学生等が直面する課題を丁寧に把握し、解決策を講じる必要がある。さらに2040年を見据えれば、外国人の老後も念頭に置いて、ライフコース全体を俯瞰した政策へ転換すべきである。
■ 具体施策(5)~労働法制の見直し
産業構造の変化や働き手のニーズの多様化を踏まえ、非定型的な業務を行うホワイトカラーを対象に、労働時間ではなく成果で評価・処遇を決めることのできる、新しい労働時間法制を創設すべきである。すなわち、労働時間法制の原則を新たな制度と現行制度(現在の労働時間と成果が比例する制度)とに複線化する。
また、雇用のセーフティーネット強化の観点から、不当な解雇に直面した労働者が十分な補償を受けられる環境の整備も不可欠である。あわせて、解雇規制の明確化のために、労働契約の終了に関する考え方について、雇用条件や企業特性等を踏まえて整理したガイドラインの策定が求められる。
【Team FD2040】