
カーン氏
経団連は1月21日、東京・大手町の経団連会館でユーラシア・グループのロバート・カーン マネージング・ディレクターから、同社が年始に公表した「2025年10大リスク」について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ トランプノミクスの影響
1月20日に就任したドナルド・トランプ大統領が提唱する経済政策「トランプノミクス」は、米国内だけでなく世界に影響を及ぼす可能性がある。そのなかでも特に重要な政策が、(1)関税政策(2)移民政策(3)財政政策――である。
関税政策については、中国に対する高い関税の賦課が予想される。具体的な手法としては、通商法301条が用いられる。同法に基づく関税は、米国通商代表部(USTR)の調査を踏まえ発動される。この調査の期間に対象国との交渉の機会が生まれるが、中国には米国が受け入れられる取引材料は少ないので、25年中に米中が包括的な取引に合意することは困難だと思われる。その結果、米国の中国への平均関税率は現在の約2倍に当たる25%になり、世界にも大きな影響を及ぼす。このような影響は、1930年にまでさかのぼらないと見られない。加えて、中国以外の国々にも関税が課せられれば、その影響は一層大きくなる。メキシコとカナダについては、最終的には合意に至ると思うが、それまでの間に課される関税の影響は不明である。東南アジアと欧州に対しても関税が課されるだろう。トランプ政権は、中国製品の第三国からの流入を防ぐために積極的に取り組む。中国のサプライチェーンの重要な一部を担っていると思われる国はリスクにさらされる。
移民政策は、関税政策よりも大きな影響を米国経済に及ぼす。米国の経済成長は、移民による労働市場への参加、納税、消費によって牽引されてきた。移民労働者は、農業、建設、医療等に集中しているが、これらの分野の人手不足が即時に解消されないことは新型コロナウイルス禍で明らかになっている。移民の減少により、労働市場にショックが起こり、さらにサプライチェーンも混乱する。これらが米国経済に及ぼす長期的な影響は大きいものになる。
財政政策については、2025年の晩春には、大規模な財政パッケージを公表するだろう。トランプ減税の延長や公約で掲げたさらなる減税の実施により、新政権の財政は持続不可能なものになると思われる。保守的に見積もっても、財政赤字は、トランプ政権期を通じて、GDP比で約7.2%まで上昇する。
■ 世界各地の紛争の影響
ロシア・ウクライナと中東の戦争は、地政学的には重要なものだったが、過去1年間の世界経済への影響は中程度だった。例えば、中東地域からの原油の輸出は、ほとんどの期間において続いていた。迂回の必要性やコストの上昇はあったが、多くの企業はしのぐことができた。
今後は、イランが弱体化したことを踏まえ、可能性は高くはないものの、イスラエルが米国の支援を得て、イランの核施設を攻撃する可能性もある。その場合、原油価格は1バレル当たり100ドルを超えるかもしれない。
ロシアとウクライナは、25年中に一時的に停戦するかもしれないが、これは平和協定にはならない。両国の考えは全く異なっている。
【国際経済本部】