
井内氏
経団連は12月23日、東京・大手町の経団連会館で労働法規委員会(冨田哲郎委員長、小路明善委員長、芳井敬一委員長)を開催した。厚生労働省労働基準局の井内努安全衛生部長から、労働安全衛生対策に関する検討状況について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 検討の背景・経緯
2023年の労働災害による死亡者数は755人と過去最少を記録したが、休業4日以上の死傷者数は13万5371人と3年連続で増加した。加えて、(1)建設アスベスト訴訟の最高裁判決(21年5月)が、労働安全衛生法(安衛法)の一部規定は同じ場所で働く労働者以外の者も保護する趣旨と判断(2)精神障害の労災認定件数が過去最多の883件(23年度)(3)化学物質の自律的管理制度に向けてリスクアセスメントの対象物質が順次拡大(24年4月以降)(4)死傷災害に占める60歳以上の割合が29.3%(23年)――の動きがあり、対策が必要となっている。
そこで、労働政策審議会安全衛生分科会で議論を重ね、政省令の改正やガイドラインの策定を実施してきた。24年4月以降は、法改正が必要な事項を中心に検討を進め、同年11月22日の同分科会で報告案を提示した。
■ 報告案の主な内容
同報告案は、次の七つの事項について法的整備を含む措置を講じるよう求めている。
1点目は、個人事業者等の安全衛生対策である。(1)安衛法の保護対象や義務主体に個人事業者等を位置付ける(2)個人事業者等自身に罰則付きの措置義務を課す(特別教育の修了等)(3)混在作業による災害防止対策を強化する(4)個人事業者等の業務上災害の報告制度を創設する――等を行う(10月3日号既報)。
2点目は、メンタルヘルス対策である。労働者数50人未満の事業場では、ストレスチェックの実施が努力義務となっているが、これを改め、事業場の規模にかかわらずストレスチェックの実施を義務化する。
3点目は、化学物質による健康障害防止対策である。化学物質の譲渡・提供時の危険性・有害性情報の通知制度を見直し、(1)通知義務違反に罰則を設ける(2)法令で定める必須通知事項(呼吸用保護具の種類等)を追加する(3)化学物質の成分名が営業秘密情報に該当する場合に代替名等の通知を認める(有害性が相対的に低い物質に限定)――こととする。
4点目は、危険な機械等の審査や検査における民間活力の活用である。ボイラーやクレーン等の製造許可の前提となる設計審査を民間の登録機関が担えるようにする。同時に、登録機関が行う製造時等の検査の対象に移動式クレーンとゴンドラを追加する。
5点目は、高年齢労働者の労働災害防止対策である。事業者に対し、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善や適切な作業の管理等の措置を講じる努力義務を課す。
6点目は、女性特有の健康課題への対応である。月経随伴症状や更年期障害等について、一般健康診断の機会を活用して女性労働者の気付きを促したり、必要に応じて専門医の早期受診等につなげたりすることを目的に、「一般健康診断問診票」に質問を追加する。
7点目は、治療と仕事の両立支援対策である。労働施策総合推進法が、両立支援対策を国の施策と位置付けていることを踏まえ、同法で事業者に対し、両立支援に必要な措置を講じる努力義務を課す。
今後は、次回の同分科会で議論を取りまとめるべく、最終調整を進めていく。
【労働法制本部】