経団連は12月9日、「FUTURE DESIGN 2040『成長と分配の好循環』~公正・公平で持続可能な社会を目指して」(FD2040)を公表した。連載第5回はイノベーションを通じた新たな価値創造について紹介する。
■ Society 5.0+
経団連は、2030年までに目指すべき社会像を「Society 5.0」として提唱してきた。Society 5.0は、デジタル革新と多様な人々の想像力・創造力を融合し、価値創造と課題解決を同時に進める社会の姿である。
FD2040では、Society 5.0をアップデートした「Society 5.0+(プラス)」を新たに提唱した。具体的には、日本が蓄積した「サイエンス・エンジニアリング力」と、コンテンツ等の「知的資源」を掛け合わせることで、新たなイノベーションを創出する。このイノベーションが、研究開発や設備投資を呼び込む「イノベーション循環」を生成し、経済成長と社会課題解決を持続的に推進する社会の絵姿である。
Society 5.0+は、日本が30年以降の「ポストSDGs」の議論をリードしていくうえでも重要な考え方となる。
■ 課題

(図表のクリックで拡大表示)
イノベーションには高い不確実性が伴い、長期的視野での取り組みが求められる。従来の「選択と集中」の考え方では、レッドオーシャン(競争の激しい既存市場)へのリソースの偏重を招きやすい。そこで、「戦略と創発」という考え方により、重点分野への投資を行いつつ、新たな「種」を広くまくことで、ブルーオーシャン(競争相手がほとんどいない新市場)の創出を狙っていく必要がある(図表参照)。
またスタートアップも、日本の国際競争力の回復に欠かせない。国内エコシステムは拡大しているものの、ユニコーン(評価額10億ドル以上、創業10年以内、未上場の企業)の数は米国や中国、欧州の後塵を拝している。グローバルに活躍するスタートアップを生み出す環境整備が急務である。
さらに、わが国の創造力と想像力を生かしたコンテンツ産業の競争力強化に向けた官民一体の支援も求められる。
■ 具体施策(1)~「産業戦略2040」と戦略分野への投資
政府は、Society 5.0+の実現に向けた司令塔機能を強化するとともに、40年ごろをターゲットにした「産業戦略2040」を策定すべきである。そのなかで、わが国が国際的な競争力を高め、世界をリードするうえで押さえなければならない戦略分野(AI・デジタル、バイオ、宇宙、コンテンツ等)を定め、政府が中長期的投資にコミットし、民間投資への支援策を展開し、イノベーション循環を加速することが重要となる。
(1)AI・デジタル
AIの開発・実装に必要となる計算資源や人材の確保とともに、イノベーションとリスク対応を両立するAI制度を構築する。また、業界・国境を越えたデータ連携の要となる「産業データスペース」を実現する。
(2)バイオ
医薬品、食料、エネルギーなど多分野に変革をもたらすバイオテクノロジーは、長期的な視点で研究・社会実装を進める必要がある。経済安全保障の観点からも、製造基盤やサプライチェーンの強化を図る。
(3)宇宙
宇宙産業基盤の強化や多頻度打ち上げの実現などに官民で取り組み、衛星データを生かした新ビジネスを育成する。同時に、国際ルールの形成に参加し、競争力を高める。
(4)コンテンツ
長期的な国家戦略に基づく官民連携での取り組み体制の構築をはじめ、関連予算の拡充といった支援策の強化、クリエイターの人材育成等により、世界一のコンテンツ大国を目指す。
■ 具体施策(2)~スタートアップ振興
大企業は、自身の競争力強化のために、対等なパートナーとしてスタートアップと連携することが当然という意識を持つ必要がある。
大学は、戦略的な特許取得や人事制度の見直し、支援体制の強化などを進めることで、研究からスタートアップが生まれ、それが生み出す利益が大学に循環することで研究力が向上し、新たなスタートアップが生まれる「Science to Startup」の好循環を促進する必要がある。
さらに、ディープテックスタートアップの成長・拡大に向けた海外資金・人材の呼び込みも不可欠である。
これらの施策により、スタートアップエコシステムを拡大し、大企業・スタートアップにかかわらず、真に競争力の高い企業が経済を牽引する形へと産業界を抜本的に変革すべきである。
【Team FD2040】