
小林氏(左)と小山氏
経団連のバイオエコノミー委員会企画部会(大内香部会長)は12月23日、東京・大手町の経団連会館で「遺伝資源に係る塩基配列情報(DSI)の利益配分メカニズムに関する生物多様性条約第16回締約国会議(CBD・COP16)報告会」を開催した。
2024年10月21日から11月1日にかけてコロンビア・カリで開催されたCBD・COP16では、DSIの利益配分メカニズムの大枠等について合意に至った。そこで、現地で交渉に当たった、経済産業省商務情報政策局商務・サービスグループ生物化学産業課の小林正寿生物多様性・生物兵器対策室長、バイオインダストリー協会(JBA)企画部の小山直人部長から、COP16における決定事項や日本政府としての今後の対応等についてそれぞれ説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ DSIの利益配分メカニズムに関するCOP決定の概要(小林氏)
公的データベース等を通じたDSIの利用が拡大している。このようななか、16年ごろから、CBDおよび名古屋議定書で規定された従来の「遺伝資源」の利益配分ルールが回避され、自国が利益を享受できなくなっているとして、途上国を中心とする遺伝資源提供国が新たなルールの策定を主張している。22年12月に開催されたCOP15において、DSIの利用から得られる利益を配分するための多数国間メカニズムを設置すること、およびその詳細をCOP16に向けて検討することが合意された。そしてCOP16において、多国間メカニズムの大枠および「カリ基金」の設置で合意した。
COP16の決定においてまず重要なのが、締約国に対する法的拘束力を有さないことである。そのうえで、DSIの利用者である一定規模以上の者は、目安として利益(profit)の1%または売り上げ(revenue)の0.1%をグローバルファンドに拠出することが求められると提示された。また、DSIを利用するセクターとして、医薬品、健康食品、化粧品、動植物育種、バイオテクノロジー、試薬および備品を含むDSIの読み取りと利用に係る実験用機器、およびAIを含むDSIに係る情報・科学技術サービスが例示された。このリストは随時見直される。拠出率と拠出対象者の規模については、産業競争力等への影響などに関する今後の調査研究を踏まえて、26年にアルメニアで開催されるCOP17で決定し、これらも以後、定期的に見直される。締約国に加えて非締約国も国内対象者の拠出を促進するための行政上、政策上または法令上の措置を執ることが奨励されている。
わが国政府は、拠出率および拠出対象者の規模に関する議論に積極的に参画し、COP17での交渉に備えていく。また国内措置に関しては、産業界の競争環境に悪影響を及ぼさぬよう十分に配慮のうえ、日本だけが不当に不利益を被ることがないよう先進国の対応状況を注視し、関係省庁と連携のもと慎重に対応する。
■ DSIからの利益配分問題~バイオ産業界の立場とCOP16決定に対する見方(小山氏)
JBAでは、業界団体からなるアドバイザリーボードと個別企業からなる産業界DSI問題検討チームを組織し、本件について議論・対応してきた。
利益配分メカニズムに関して産業界のコンセンサスと言い得る部分を紹介する。特定のセクターや企業に重い負担を負わせた場合、DSIの使用控えや事業撤退を招く恐れがあるため、負担は「広く・薄く」あるべきとした。また、拠出による企業の自由実施権(Freedom to Operate)の確保や環境貢献活動のアピールとして有効なインセンティブ設計が必要とした。さらに、セクターによっては、拠出率の多寡は事業存続に多大な影響を与えること、およびDSIの利用形態や程度は企業ごとに大きく異なることから、対象セクター全体に一律の拠出率を課すことは適切ではないとした。これらを中心にJBAで産業界の意見を取りまとめ、CBD事務局および日本政府に意見書を提出してきた。
個人的所感ではあるが、今般のCOP16決定で目安として提示された拠出率は、依然として高すぎる。他方、先進国のDSIユーザーや消費者を狙い撃ちにする設計が回避されたことは成果である。拠出対象者の規模に関する目安も提示されたが、閾値や傾斜料率などに関する「解像度」は低く、今後の検討課題は多い。また、同COP決定において、拠出は努力義務またはボランタリーなものと解釈されるが、今後の各国の国内措置次第では、拠出に強制力が生じる可能性もある。このため各国の動向を注視する必要がある。
COP17に向けて、産業界からのさらなる意見の提出とDSI利益配分の各業界へのインパクト評価を行うことを検討している。ぜひ、より多くの企業に協力してもらいたい。
【産業技術本部】