経団連事業サービス(十倉雅和会長)は12月10日、東京・大手町の経団連会館で、次代を担う経営リーダー育成を目的とする年間講座「経団連フォーラム21」とミドルマネージャー対象の年間講座「経団連グリーンフォーラム」との合同による拡大講座を開催した。ユーグレナ社の出雲充社長、東京大学地震研究所地球計測系研究部門の三反畑修助教が、それぞれ講演した。両フォーラムの今期メンバーと修了生ら、オンラインを含め約160人が参加した。概要は次のとおり。
■ 僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。(出雲氏)
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私は大学1年生の夏に訪れたバングラデシュで、ムハマド・ユヌス博士が創設したグラミン銀行のインターンに参加した。ビジネスを通じて社会課題の解決を目指す同行の取り組みに感銘を受け、ソーシャルビジネスに挑むことを決意した。同国には栄養失調の子どもが多いが、それは食料が足りないからではなく、必要な栄養素が足りていないからだということを知った。この社会課題を解決する答えが、59種類もの栄養素をバランス良く含む微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)だった。
そこで2005年、東京大学発のベンチャー企業を立ち上げ、非常に困難とされたユーグレナの培養研究に何度も失敗しながら挑戦し、世界で初めてユーグレナの食用屋外大量培養の技術を確立することができた。14年には「ユーグレナGENKIプログラム」を開始し、今ではバングラデシュの95の小学校にユーグレナ入りクッキーを1日1万食以上提供するに至っている。
日本は、25年を境にデジタルネイティブ・ソーシャルネイティブであるミレニアル世代・Z世代が生産年齢人口の過半数を占めるようになる。価値観の転換が予想されるなか、企業自身も変わらなければ、その存続もサステナブルな社会の実現も困難である。若者やスタートアップ企業といった外部リソースを活用してオープンイノベーションを加速させ、企業自身をも変革させる視点が重要となる。
イノベーションの創出には、適切な科学技術と繰り返し努力する力が不可欠である。またその努力には、メンター(尊敬できる先生や師匠)とアンカー(夢を忘れずにいられるようなアイテム)が必要である。企業でリーダーとして活躍されている皆さんには、若者や学生にとってのメンターとなり、夢を授けるアンカーを渡してもらいたい。皆さんがチェンジメーカーとなり、そして、日本からたくさんのアントレプレナー(起業家)が生まれることを願っている。
■ 火山と津波の謎を解く~海底火山研究の最先端(三反畑氏)
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津波の多くはマグニチュード7超の大規模地震により発生しており、津波予報は地震の観測データに基づく推定により発令されている。しかしながら、小・中規模地震であっても、海底火山の活動により大きな津波が起こることが分かってきた。
伊豆諸島の海底火山・須美寿カルデラではおよそ10年おきに、マグニチュード5程度の中規模地震でも1メートル程度の津波が発生している。地震の規模から想定されるよりも大きな津波が発生するメカニズムはこれまで不明であった。しかし、陸海統合地震津波火山観測網(MOWLAS)の整備や解析手法の高度化等により、海底火山でのトラップドア断層破壊による海底カルデラの隆起が原因であることが突き止められた。こうした研究成果は津波予測精度の向上に重要な知見をもたらしており、24年9月に須美寿カルデラで地震が発生した際、気象庁は津波注意報を地震発生直後に発令することに成功した。今後は、MOWLASと研究結果を活用することで、地震観測のみによらない津波予測の実装が期待されている。
同じく伊豆諸島の孀婦岩周辺では23年10月、14回の小・中規模地震が連続して発生した。その際、地震に伴って発生した複数の津波が重なり、波高が増幅されて大きな津波になるという世界初の現象が確認された。その原因もまた、海底火山の大規模噴火だった可能性が高い。
日本近海には、小笠原諸島の西之島や福徳岡ノ場等、数多くの海底火山が存在している。しかし、その観測網は十分に整備されていない。海底火山の研究は、人命や財産を守ることにつながる社会的意義の高いものであることから、今後、観測網の整備拡充に加え、さらなる調査・研究が必要と考えている。
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講演後、「経団連フォーラム21」23年度生の修了レポートから選定された優秀作品5件の表彰式を行った。その後の交流会では出席者が懇親を深めた。両フォーラムのメンバーは、25年3月の修了式に向けて引き続き研鑽を積む。
【経団連事業サービス】