経団連は12月9日、「FUTURE DESIGN 2040『成長と分配の好循環』~公正・公平で持続可能な社会を目指して」(FD2040)を公表した。連載第3回は環境・エネルギーについて紹介する。
■ GXの推進
2050年カーボンニュートラル(CN)達成とわが国の産業競争力強化・経済成長の実現を両立させるためには、経済社会全体の変革であるグリーントランスフォーメーション(GX)の推進が不可欠である。
GX実現のカギはイノベーションである。政府は現在、GX経済移行債を呼び水に民間投資を引き出し、革新的技術や社会インフラへの投資を促しており、40年に向けて戦略的投資促進策を継続すべきである。あわせて、排出量取引制度(GX-ETS)の適切な設計・運用を通じ、GX経済移行債の償還財源を確保することも重要である。こうした「成長志向型カーボンプライシング構想」の具体化は、モダン・サプライサイド・エコノミクス(Modern Supply Side Economics)(注1)のモデルケースと成り得る。
また、GX製品(注2)に係るグリーン価値の「見える化」や同製品への需要喚起等を通じたグリーンマーケットの創出、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)等を活用した革新的技術・GX製品の海外展開にも取り組むことが肝要である。
■ 多様なエネルギー源のベストミックスの追求

(図表のクリックで拡大表示)
資源の乏しいわが国においては、S+3E(注3)を大前提とし、省エネを徹底しつつ、多様なエネルギー源を組み合わせることで、安価で安定したエネルギー供給を実現していくことが求められる。特に、50年CNの実現に向けて、わが国のエネルギー自給率向上に資する脱炭素電源として、再生可能エネルギーと原子力・核エネルギーを最大限活用することが不可欠である。
再エネは、主力電源化に向け、「低コスト」「安定供給」「責任ある事業規律」を備えた案件の導入加速が必要である。
原子力・核エネルギーは、安全性の確保を大前提に、最大限の活用を進めるべきである。特に、40年代以降、原子力発電所の設備容量が急減する見込みであることから、既設発電所の再稼働の加速とともに、革新軽水炉の建設を具体化することが重要である。あわせて、高温ガス炉・高速炉、さらには核融合炉の開発・実装に、時系列をもって取り組まなければならない(図表参照)。
火力は、調整力等を供給する電源であり、変動性の再エネを拡大させるなかで電力の安定供給に重要な役割を担っている。高効率液化天然ガス(LNG)火力の活用、水素・アンモニア混焼・専焼の実施等、低炭素化・脱炭素化を進めるべきである。
同時に、トランジション期における化石燃料の安定調達は不可欠であり、権益確保や投資協定の強化・拡大等に取り組むことが求められる。
■ CEへの移行
わが国は世界に先駆けて循環型社会の形成に取り組んできた。今後は、サーキュラーエコノミー(CE)への移行をドライビングフォースとして、資源調達・生産・消費のあり方を変革させることが新たな課題である。
質および量の両面で十分な再生材の供給体制構築に向けては、循環資源の効率的回収や再資源化工程の高度化・脱炭素化を進めることが重要である。また、バリューチェーン全体での連携を促進すべく、資源循環に関する情報流通基盤およびデータベース構築等の確立に取り組む必要がある。
■ NPの推進
生物多様性・自然資本は経済・社会活動の基盤であり、その保全・回復への取り組み促進には、自然関連情報等の把握と取り組み効果の測定が極めて重要である。可視化を通じて、ネイチャーポジティブ(NP)への取り組みが評価され企業価値を高め、持続的な活動へと「好循環」を生むことが期待される。
そのための環境整備として(1)生物多様性・自然資本に関する国際通用性のあるデータ基盤の整備(2)取り組み効果の評価・モニタリングにおける国際的に認められた分かりやすい手法の確立(3)わが国企業の強みを生かした、国際社会をリードするNP経営モデルの構築・普及――等に取り組むべきである。
(注1)気候変動問題など社会課題の解決にターゲットを絞り、長期計画に基づいて複数年度、政府が財政支出をコミットする政策枠組み。民間投資を促進するとともに、官民連携を推進する
(注2)企業の脱炭素投資によって生み出された、温室効果ガス(GHG)排出削減量が大きい製品
(注3)安全性(Safety)の確保を大前提とした、エネルギー安全保障・安定供給(Energy security)、経済効率性(Economic efficiency)、環境性(Environment)のバランス確保
【Team FD2040】