経団連は4月16日、報告書「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」を公表した。
同報告書は、雇用政策委員会(淡輪敏委員長、内田高史委員長)と同委員会人事・労務部会(直木敬陽部会長)での約2年にわたる検討の成果を取りまとめたもの。高齢者雇用の現状と課題、対応の方向性とともに、12社の事例を収録している。概要は次のとおり。
■ 現状と課題、解決に向けた対応の方向性
経団連が実施した調査結果等を基に、高齢者雇用の現状と課題を7項目に整理した。そのうえで、課題解決に当たって、(1)高齢社員のさらなる活躍推進を図り(2)能力や知識等に適した職務・役割を割り当て(3)成果・貢献度を評価して適切に処遇に反映する――という好循環を回すことを基本的な考え方とした(図表参照)。その際、「加齢に伴って心身の能力は低下していく」との従来のイメージにとらわれず、高齢社員の身体能力や心身の変化が就労に与える影響を適切に考慮することが有益である。
1.職務・役割
多くの企業は高齢社員に、定年前と同じ職務を継続あるいは同じ職務で役割や範囲等を縮小して割り当てている。エンゲージメント向上等の観点から、能力等を生かせる職務や役割を担ってもらうことが重要である。
また、仕事を主体的に見直し、新たな意味付けを与える「ジョブ・クラフティング」の考えを採り入れ、高齢社員に創意工夫を促すことも有効である。
2.賃金水準・賃金制度
多くの企業は、職務・役割の変更の有無によらず、高齢社員の基本給や賞与・一時金を定年前より低く設定している。
同一労働同一賃金の観点も踏まえながら、高齢社員が担っている職務や役割等と整合性の取れた賃金水準を設定する必要がある。
3.人事評価制度
高齢社員への人事評価結果を基本給に反映した企業は5割以下であり、一部企業は、フィードバックも行っていない。
高齢社員を含む「働いている社員全員」を対象とした人事評価の実施を基本としたうえで、フィードバックはもとより処遇への適切な反映が必要である。
4.マネジメント
個々の高齢社員の事情に応じたマネジメントや、「年下上司」と「年上部下」の関係性を課題と感じている企業は多い。
そこで、多様で柔軟な勤務制度を導入・拡充するとともに、良好な関係構築に向けて、当事者を対象とした研修・セミナーや定期的な面談を実施することが考えられる。
5.能力開発・スキルアップ
能力開発・スキルアップに取り組む高齢社員の割合は2割程度で、他の世代より相対的に低い。
高齢社員の主体的な能力開発に向けて、企業には、定年前の早い段階から、高齢期を見据えたキャリア教育の実施のほか、能力開発等への経済面の支援が求められる。
6.知識や技術・技能の伝承と後継者の育成
技能継承に問題があると回答した企業は4割を超えている。
それに対しては、経営トップや人事部門が技能等の伝承の重要性を社内に周知・浸透させるとともに、高齢社員が担う仕事等の一つに「後継者の選定と技能等の伝承」を位置付けることが有益である。
7.安全・健康
増加傾向にある高齢社員の労働災害の防止には、ハード(デジタル技術の活用等)とソフト(安全教育の充実等)の両面からの取り組みが必要となる。
■ 今後の方向性
企業における高齢者雇用制度を類型化すると「定年設定型」と「定年廃止型」に大別できる。現状は、「定年設定型」のうち、定年後に適用する人事・賃金制度を別建てする「2制度適用型」が大勢である。
各企業には、自社の制度がどの類型に当てはまるのかを確認したうえで、どのような制度を目指すのかを見据えながら、「自社型雇用システム」確立の一環として検討・見直すことが望まれる。
【労働政策本部】