経団連は3月11日、東京・大手町の経団連会館でダイバーシティ推進委員会企画部会(工藤禎子部会長)を開催した。女性の活躍を阻害する社会制度の一つとして見直しの機運が高まっている「夫婦同氏制度」をテーマに、法務省民事局の齊藤恒久参事官から、法制審議会で1996年に取りまとめられた答申、2010年に準備された選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)に関する民法等の改正案およびその後の状況等について説明を聴くとともに、意見交換した。概要は次のとおり。
■ 時代の要請による「選択的夫婦別氏制度」導入に向けた民法改正案
現行の民法は、婚姻に際し男性または女性のいずれか一方が必ず氏を改めなければならない「同氏制度」を採用している。それに対し、選択的夫婦別氏制度は、夫婦が望む場合には、婚姻後も夫婦がそれぞれ婚姻前の氏を称することを認める制度である。時代の流れとともに女性の社会進出が進んだことや人口の都市部集中、核家族化、少子高齢化など、家族をめぐる環境が大きく変化するにつれ、同氏制度への改正の必要性が指摘されるようになった。
政府では選択的夫婦別氏制度をめぐり、1991年から法制審議会民法部会において審議がなされた。審議の間に関係団体や個人から寄せられた意見のうち、別氏制度を導入すべき理由としては、(1)(女性の社会進出が進むに伴い増加していた)改姓による社会生活上の不利益を解消すること(2)現代社会における多様な価値観を受容すること(3)個人の氏に対する人格的な利益を保護すべきこと(4)約98%(注)の女性が婚姻によって氏を改めているという、実質的な男女不平等を解消すること――などがあった。最終的に法制審は96年、婚姻時に同氏か別氏かを選択できるようにする選択的夫婦別氏制度の導入を答申した。この答申を受け、法務省は同年および2010年に、それぞれ改正法案を準備した。しかし、いずれも当時の政権内でさまざまな議論があり、国民の意識に配慮しつつ、慎重に検討する必要があるとの判断から、国会に提出するに至らなかった。
■ 司法の判断
現行の夫婦同氏制度をめぐっては、同制度が憲法の定める幸福追求権や法の下の平等に違反しており、国会がこれを是正する立法措置を講じないことを理由とする国家賠償を請求する訴訟の提起や、夫婦別氏での婚姻届の受理申し立てがされている。15年の最高裁大法廷判決は、氏は社会に定着し、家族の呼称として意義があること等を判示し、夫婦同氏制度は「憲法に違反しない」と判断した。21年の最高裁大法廷決定も同様の判断をした。これらの判決または決定には複数の裁判官から反対意見が示された。
もっとも、これらの最高裁大法廷の判断は、いずれも選択的夫婦別氏制度に合理性がないと判断したものではなく、夫婦の氏に関する制度のあり方は、「国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないというべきである」と判示している。
法務省は、選択的夫婦別氏制度の導入を内容とする法制審の答申は、今もその内容が社会の実情に合わなくなったなどとはいえないと考えている。選択的夫婦別氏制度の導入は、婚姻制度や家族のあり方と関係する重要な問題で、引き続き議論をしながら、国民の理解のもとに進められるべきである。
◇◇◇
説明後、別氏制度を認めることによって生じるデメリットや、夫婦別姓のために事実婚を選択している方に対する法務省の見解等について質疑が行われ、活発に議論した。
(注)当時の数値。現在は約95%
【ソーシャル・コミュニケーション本部】