経団連は2月29日、3月1日および同月7日に、東京・大手町の経団連会館ほか都内で、バイオエコノミー委員会企画部会（大内香部会長）を開催した。ダイセルの三好史浩生産本部副本部長、新エネルギー・産業技術総合開発機構（NEDO）の水無渉技術戦略研究センターバイオエコノミーユニットユニット長、経済産業省商務情報政策局の下田裕和生物化学産業課長からそれぞれ説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ バイオマスバリューチェーン構想（三好氏）

ダイセルはセルロイドの国産企業8社が統合し設立された大日本セルロイドを前身とする。硝酸セルロースを原料とするセルロイドは燃えやすい特徴があることから、1951年から不燃化した酢酸セルロースの製造を開始した。また硝酸セルロースは火薬の原料として使用されることから防衛事業への展開も図った。これら基盤技術を基に、現在は偏光板用TAC^（注）フィルムや自動車エアバッグ用インフレーター等の製造事業を展開している。

酢酸セルロースは木材パルプを原料に製造している。国内に目を向けると、国土の7割が森林であるにもかかわらず輸入材が多く、国内資源の利用率は低い。放置林も増加している。そこで当社では、「いのちの森づくり」ということで、その地域の自然環境に即した植生を中心に、多数の樹木を混ぜて植える植樹方法を進めることによって、原生林に近い状態に戻すことに取り組んでいる。さらに、木質バイオマス資源を「溶かす」技術を京都大学などと共に開発した。これは木材を丸ごと資源化することを可能とする。国内の森林の全てをこの技術で資源化した場合、現在の石油由来の環状・芳香族化合物の大部分に相当する量になる。農作廃棄物や魚介廃棄物も溶かすことができる。原生林化と溶かす技術によって、1次産業の歩留まりを向上させ、1次・2次産業が相互に連関して活性化を目指すのがバイオマスバリューチェーン構想である。

■ バイオものづくりの国内外の動向等（水無氏）

バイオエコノミーはデジタルと同様に各国で大きな注目を集めている。米国は2023年3月、20年以内にプラスチックの90％をバイオ原料由来に置き換えるという野心的な目標（Bold Goals）を発表した。これは、グーグル元CEOのエリック・シュミット氏が設立したシュミット財団による提言も強く影響していると考えられる。欧州は標準・規格と環境影響を織り交ぜて巧みに戦略化している。「森林破壊防止のためのデュー・ディリジェンス義務化に関する規則」が23年6月に発表され、欧州域内保護や競争力強化に利用する可能性が高い。アジアでは、22年5月に5カ年計画を発表した中国や、バイオマス資源国のタイ、ディープテックに戦略的に取り組むシンガポールのほか、マレーシア、インドネシアの動向にも注目する必要がある。

バイオエコノミーに関する主要な国際会議として、ドイツが主導し各国がビジョンやミッションを共有する「グローバル・バイオエコノミー・サミット」が有名である。世界経済フォーラムやOECDもバイオエコノミーや合成生物学に関するイニシアチブを進めている。日本もこういった活動に積極的に参画してプレゼンスを発揮するとともに意見を発信し、グローバルな潮流づくりに貢献することが重要である。

■ バイオ政策の現状と今後の方向性（下田氏）

19年にわが国のバイオ戦略が策定され、現在数年ぶりとなる大幅な改定作業に入っている。この間、国家としてバイオの重要性が再認識され、大型の予算も措置されてきた。経産省のバイオものづくりに関わる予算は大きく二つある。一つはグリーンイノベーション基金事業で、CO₂原料によるバイオものづくりを目指す。もう一つは食品残渣などCO₂以外の未利用資源の活用とバイオエコノミーの社会実装を目指すバイオものづくり革命推進事業である。前者は採択を完了している。後者は二次公募を締め切ったが、古紙・パルプや建材などの有効活用を図る案件の増加が特徴的である。技術開発だけでなく、規制や認証などルール整備も並走させながら、市場づくりにも取り組んでいく。

また、創薬ベンチャーエコシステムの形成に向けて、厚生労働省や文部科学省とも連携している。海外ベンチャーキャピタル（VC）を含めた認定VCを通じて大型資金を供給し、日本だけでなく米国の市場もねらう。

そのほか、再生・遺伝子治療推進に向けたCDMO（医薬品開発製造受託機関）の可視化、デュアルユースによるワクチン・バイオ医薬品の国内生産体制の整備、経済安全保障の対応にも積極的に取り組んでいく。

【産業技術本部】