経団連の通商政策委員会(早川茂委員長、中村邦晴委員長)は3月6日、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。滝崎成樹内閣官房TPP等政府対策本部首席交渉官から、自由で公正な貿易投資の推進と、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)が果たす役割について説明を聴いた。概要は次のとおり。
CPTPPは現在、第四の節目にある。第一の節目は2013年3月、当時の安倍晋三内閣総理大臣が交渉参加を決断した時である。第二の節目は17年1月の米国の離脱である。その後、日本は主導的な役割を果たし、同年11月にCPTPPの大筋合意に導いた。第三の節目は、21年2月の英国によるCPTPP加入申請である。初の加入申請であるのみならず、「環太平洋」と名の付く協定に、地理的に離れた英国が加入を申請したことは、協定の広がりを如実に表している。これらの節目を経た現在、CPTPPは、目下の二つの課題を乗り越え、さらに先へ進むべき時を迎えている。
その課題の第一は、参加国の拡大である。現在、中国、台湾、エクアドル、コスタリカ、ウルグアイ、ウクライナの六つのエコノミーから加入申請が提出されており、現参加国は、加入交渉を開始するか否かを判断する必要がある。判断基準は、23年7月に閣僚レベルで採択した三つの原則(1)CPTPPに定められた高いスタンダードを維持できるか(2)当該エコノミーがこれまで貿易投資に関する国際的な約束を遵守してきたか(3)参加国のコンセンサスが得られるか――である。加入申請をしている六つのエコノミーのうち、コスタリカは、OECDへの加盟も果たしており、経済的なレベルは高い。また、CPTPP参加国のうち6カ国との間ですでに自由貿易協定(FTA)を締結しており、中米における自由貿易の旗手ともいえる。
これらに加えて、韓国、インドネシア、タイ、フィリピン、インドといった国々からも加入への関心が聞かれる。インドネシアは、45年までにGDPを世界第5位まで押し上げ、先進国入りを目指すことを表明しており、先日OECD加盟に向けた協議の開始も発表された。参加国の拡大を実現し、前述の三つの原則を満たすエコノミーであれば加入可能な開かれた、かつ包摂的な協定であることを世界に示していく必要がある。
課題の第二は、協定内容の見直しである。CPTPPは時代の要請に応じて進化すべきとの考えから、協定の一般見直しが今後本格化する予定である。現参加国の主な関心は、通関手続きやデジタル経済にある。加えて、経済的威圧や市場歪曲的な慣行への対処、サプライチェーンの強靭化についても議論をしていくことになる。25年秋の閣僚レベルによるTPP委員会までに一定の成果を挙げることが目指されている。
CPTPPは、自由で公正な国際経済秩序の礎であり、経済的なメリットを超え、地域・世界の安定と繁栄にも資する意義がある。日本にとっては、米国離脱後のCPTPPを主導したため、「日本ブランド」の協定といえる点でも重要である。利用しやすい協定とする観点からも、企業の皆さまからのインプットをぜひお願いしたい。今後もCPTPPの戦略的な意義を守るべく、参加国の拡大と協定内容の見直しに取り組んでいく。
【国際経済本部】