経団連は2月2日、都内で教育・大学改革推進委員会(小路明善委員長、橋本雅博委員長)を開催した。東北大学の大野英男総長から、博士人材の育成・活躍に向けた同大学の取り組みについて、文部科学省大臣官房文教施設企画・防災部の笠原隆部長から、国立大学等キャンパスのイノベーション・コモンズ(共創拠点)への転換とさらなる展開について、それぞれ説明を聴くとともに懇談した。概要は次のとおり。
■ 大学院教育改革と博士人材の活躍推進(大野氏)
日本は、民間企業で働く博士号取得者の生涯賃金が修士号取得者と比べて高いものの、経済的理由やキャリアパスへの不安等から、博士課程への進学をちゅうちょする者が多く、博士号取得者数が国際的に少ない。また、博士号を持つ企業研究者の割合も低水準かつ横ばいで推移している。
一方、技術進歩が著しく、複雑な問題の解決が求められる社会において、企業が競争力を維持していくためには、発明・研究の両面で、生産性が高くイノベーションを実現でき、多角的な視野を持つ博士人材が重要である。海外では就労ビザに優遇措置を設けて博士人材の獲得を行う例も増えている。ジョブ型雇用の拡大によって博士人材の需要が増していくとみられるなか、経済的支援の充実とキャリアパスの拡大を通じた優秀な博士人材の育成は、喫緊の課題である。
博士人材の育成に向けて、本学では、まず多様な財源により経済的支援を強化している。具体的には、社会人を除く博士後期課程学生を対象に1人当たり年平均約180万円(生活費相当分)を支給し、授業料も実質無料にしている。経済的支援の対象者が拡大するにつれて博士課程進学率に伸びがみられるなど、効果が出ている。
また、経済的支援とセットで、対課題スキル、自己管理スキル、対人スキルなど、業種等を超えて応用可能な能力を修得するための「トランスファラブルスキル養成プログラム」の受講を義務付けている。
さらに、研究科の壁を超えた、多様な横断型の学位プログラムを展開している。例えば、修士・博士課程一貫の「国際共同大学院プログラム」では、6カ月以上の研究留学を必須とし、海外有力大学との連携のもと共同教育を実践している。「産学共創大学院プログラム」では、国内外の企業および研究機関との共創により、社会課題の解決に挑戦し、社会にイノベーションをもたらす人材を育成している。「産学共創大学院プログラム」の一つである「人工知能エレクトロニクス卓越大学院プログラム」では、6カ月以上の国内外のインターンシップへの参加を必須とし、産学連携を通じた実践力を育成している。こうした取り組みの結果、これらの学位プログラムでは企業に就職する修了生が増えてきており、専門分野以外への進路選択の幅が広がっている。
博士人材の一層の活躍に向けて、産業界には、(1)博士人材の採用に関する積極的なメッセージの発信(2)採用した博士人材の処遇の可視化(3)魅力的なキャリアパスの提示――をお願いしたい。大学院進学と博士号取得に対するポジティブなイメージを形成することで、産学の協働により博士人材を育成・活用していく社会へと転換する必要がある。
■ イノベーション・コモンズ(共創拠点)への転換とさらなる展開(笠原氏)
地域の知と人材の集積拠点である大学は、わが国の社会全体の変革の駆動力として、イノベーション・産業振興のハブや人材育成の拠点等の役割を積極的に果たしていくことが求められている。
こうした状況を踏まえ、文科省は2021年3月に策定した「第5次国立大学法人等施設整備5か年計画」(計画期間=21~25年度)において、国立大学等のキャンパス全体をソフト・ハード一体で、地域や産業界等の多様なステークホルダーが共創し新たな価値を生み出す「イノベーション・コモンズ(共創拠点)」へと転換する方針を掲げている。
その実現にあたっては、各大学等の特色・強みを生かしていくことや、大学のビジョン等に基づき、まちとの関係性も踏まえつつ、キャンパス全体を交流・対話の場として整備すること等が重要である。また共創の前段階から、大学は共創の考え方を明確にし、産業界等のステークホルダーとビジョンを共有するなど、日頃からステークホルダーとの関係を構築していく必要がある。地方公共団体・産業界には、共創拠点化の企画段階から参画し、必要な予算の確保や体制の強化等に取り組んでもらえるとありがたい。
文科省では、次期国立大学法人等施設整備5か年計画(計画期間=26~30年度)の策定に向けた議論を24年度より開始する。同計画策定に向けた議論では、新たな視点として、カーボンニュートラル(CN)に向けた取り組みや、グローバル化への対応、財源の多様化、持続可能な維持管理の観点も含めた適切な資産マネジメントを加える予定である。産業界の知見を得ながら議論を進めたい。
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このほか、「博士人材と女性理工系人材の育成・活躍に向けた提言(案)」を審議し、了承した。
【SDGs本部】