経団連は1月12日、東京・大手町の経団連会館で教育・大学改革推進委員会企画部会(平松浩樹部会長)を開催した。東京工業大学の益一哉学長から、同大学における教育改革と博士人材・女性理工系人材の育成・活躍に向けた取り組みについて説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。
■ 改革の全体像
本学は人材育成を通じて産業を興すという理念のもと、これまでさまざまな改革を進めてきた。2016年から、世界最高の理工系総合大学の実現を目指して、「教育改革」「研究改革」「ガバナンス改革」に取り組んでいる。教育改革では、学生が自ら進んで学び、鍛錬する「志」を育み、卓越した専門性に加えてリーダーシップを備えた理工系人材を養成することを念頭に置いている。研究改革では、複雑化する社会の要請に応え、新たな分野や融合研究分野を創出し、研究成果の社会への還元を一層促進することを目的としている。ガバナンス改革では、学長のリーダーシップのもとで、意思決定と資源配分が可能な体制を構築している。これらの改革を実行するため、「多様性と寛容」「協調と挑戦」「決断と実行」から成る「Tokyo Tech Commitments 2018」を策定した。また、経営改革ビジョンに基づき、社会との連携強化を通じて研究費等の財源の多様化と財政基盤の充実を図る。あわせて、そこで得られた資金を教育研究基盤に投資することで、卓越した教育・研究による学知の創造と社会実装の好循環の実現を目指している。
■ 教育改革
本学では、(1)「世界のトップスクールとしての教育システム」の構築(2)「学び」の刷新(3)大胆な国際化の推進――を3本柱に教育改革を進めている。具体的には、学部と大学院を統合し、学士課程から博士課程までの教育カリキュラムを継ぎ目なく設計した学院制を導入するとともに、大学院での文系教養科目の履修を必須化し、入学から卒業・修了まで教養教育と専門教育を並行して学修するくさび形の教育課程を設けている。さらに、優秀な留学生を獲得するために、大学院ではすべての専門科目の講義を英語で行っている。このほか、1年を4学期に区切る「クオーター制」を導入し、集中的に効率よく学修できるようにするとともに、学部3年第2クオーターに必修科目を配置しないことで、この期間を利用した留学やインターンシップ等への参加を促している。
■ 博士人材の育成
本学は、学部2年からの研究室活動とテーラーメード型カリキュラムを通じて学生の主体的な学びを重んじる教育を実践することで、既存の枠を超えたオンリーワンの博士の輩出に取り組んでいる。文部科学省の卓越大学院プログラムに採択された3件の5年一貫博士課程プログラムでは、産学連携を通じて、産業界の課題を解決できる博士人材を育成している。ただし、これらのプログラムの自立化は今後の課題である。
産業界の皆さまに、長期かつ有給のジョブ型研究インターンシップへの博士課程学生の受け入れを感謝する。大学・企業が共にマインドセットを変えることで、取り組みをより一層推進していきたい。
■ 女性の活躍推進
本学は、ダイバーシティ&インクルージョンの観点から、女性の活躍を推進している。まず、女性教員比率20%という目標(21年現在約10%)を達成すべく、22年から女性限定の教員公募も行っている。また、24年4月入学対象の入試から、総合型・学校推薦型選抜のなかに「女子枠」を導入する。女子枠入試は多様な評価軸で選抜する方法の一つであり、どの入試形態であっても、モチベーションを持って学び続けられる学生を選抜している。経営者の皆さまは、本学のみならず女子枠導入を決断した大学を前向きに評価してほしい。加えて、女子高校生が本学での学びを体験するイベント「一日東工大生」の開催や、奨学金における女子学生枠の創設にも取り組んでいる。
理工系分野の女性活躍の場が広がらない現状に危機感を抱いており、これを是正することが本学の使命と認識している。入試制度や人事制度の改革とそれを支える環境の整備に取り組むとともに、他大学や政府、経済界等にも働きかけることで、全国的な活動につなげたい。
■ 今後の取り組み
本学は、24年10月に東京医科歯科大学と統合し、「東京科学大学」を設立する。今後、部局を超えた連携協働を推し進め、社会課題の解決に取り組みたい。また、田町キャンパスを日本のスタートアップが世界に羽ばたく拠点とすべく、国内外の大学と企業との産学連携を強化していく。
【SDGs本部】