経団連(十倉雅和会長)は1月16日、2024年の春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスや雇用・労働分野に関する経団連の基本的な考え方を示す「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)の24年版を取りまとめた。大橋徹二同委員長が同日、記者会見を行い、公表した。
大橋委員長は24年の春季労使交渉について、「『コストプッシュ型』による高い物価上昇局面で行われることから、『賃金決定の大原則』に則った検討の際、特に物価動向を重視し、自社に適した結論を得ることが必要」と表明した。
また、中小企業における構造的賃金引上げと有期雇用等社員の賃金引上げ・処遇改善が、わが国全体の機運醸成に重要であることに鑑み、これら2点を経営側の基本スタンスにおいて初めて項目立てしたことを紹介。そのうえで、「できるだけ多くの機会をとらえて周知活動を展開し、24年版経労委報告の内容を実行へとつなげていきたい」と語った。同報告の概要は次のとおり。
■ 第Ⅰ部 「構造的な賃金引上げ」の実現に不可欠な生産性の改善・向上
アウトプットの最大化には、働き方改革「フェーズⅡ」の深化、労働時間法制の見直し、「DE&I(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉&インクルージョン〈包摂性〉)」のさらなる推進が必要である。インプットを効率化する働き方改革「フェーズⅠ」の推進・継続も重要である。
日本全体の生産性の改善・向上には、働き手・企業・政府の各主体が、労働移動に対する意識改革に取り組むとともに、円滑な労働移動に適した労働市場を作り上げていくことが必要である。
働き手には、主体的なキャリア形成とその実現に必要なスキルアップが望まれる。企業には、採用方法の多様化や学び・学び直しの促進のための経済的支援と時間的配慮、企業風土や諸制度の働き方、職業選択に対する中立性の検証などを通じた「自社型雇用システム」の確立が求められる。政府には、雇用のマッチング機能の強化、「労働移動推進型」セーフティネットへの移行、働き方や職業選択に中立的な税制や社会保障制度の検討・見直しを求める。
労働力問題については、多様な人材の活躍推進による「量」の確保、能力開発・スキルアップ等を通じた「質」の向上の両面からの対応が不可欠である。
地方経済の活性化には、その重要な担い手である地元企業と中小企業の生産性の改善・向上に加え、地方への人の流れの創出が重要である。
■ 第Ⅱ部 24年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンス
物価上昇が続くなか、賃金引上げのモメンタムを維持・強化し、「構造的な賃金引上げ」の実現に貢献することが経団連・企業の社会的な責務である。
自社に適した賃金引上げについては、23年以上の意気込みと熱意を持って、積極的な検討と実施を求めたい。具体的には、月例賃金、初任給、諸手当、賞与・一時金を柱に、自社に適した結論を見いだすことが大切である。月例賃金の引上げにあたっては、ベースアップ実施を有力な選択肢とした検討が望まれる。
中小企業における構造的な賃金引上げの実現には、中小企業による生産性の改善・向上の取り組みに加え、サプライチェーン全体でのサポートが必要である。経団連は、「パートナーシップ構築宣言」に参画する企業の拡大と実効性の確保等を強力に働きかけていく。
有期雇用等社員に関しては、同一労働同一賃金法制への対応や能力開発・スキルアップ支援、正社員化推進等によって賃金引上げ・処遇改善に取り組む必要がある。
賃金引上げとともに「人への投資」促進の両輪と位置付けられている「総合的な処遇改善・人材育成」については、「働きがい」「働きやすさ」に加え、「担当業務との関連度合い」「対象とする社員」などの観点からの検討も一考に値する。
こうした取り組みの実現には、働き手や労働組合の協力が欠かせない。労使は価値協創に取り組む「経営のパートナー」との認識をより強くしながら、わが国の社会的課題の解決に向けて、未来を「協創」する労使関係を目指していく。
【労働政策本部】