経団連は11月30日、東京・大手町の経団連会館で地域経済活性化委員会(永井浩二委員長、小林哲也委員長、月岡隆委員長)を開催した。神戸大学大学院法学研究科の砂原庸介教授から、地方政府間の連携の課題や今後の制度のあり方について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 地方政府間の連携をめぐる問題の所在
諸外国における多くの大都市では、鉄道等の公共サービスが地方政府の境界を越えて提供されている。他方、日本は市営地下鉄をはじめ、地方政府の境界を越えた途端にサービスが途切れ、地域住民の利便性を損なうケースがみられるなど、大都市圏内の地方政府間での調整メカニズムが乏しい。
この問題は、地方政府の行政領域よりも、都市の実際の活動圏域が大きいことに起因している。この差が拡大すると、サービスの負担者と受益者が一致しないだけでなく、都市圏内の各地方政府が、都市圏全体にとって最適な決定を行わない可能性が生じる。
これら諸課題の解決方法としては、(1)地方政府同士の合併(2)道州制や新たな大都市制度の策定を含めた権限や責任の再配分(3)企業による広域的な公共サービスの提供(4)地方政府間の業務連携――の四つが考えられる。日本では、昭和と平成それぞれで大合併が行われ、中心的な解決方法となってきた。しかし、合併や権限・責任の再配分は、政治的なコストが極めて大きい。
地方政府間の連携が進んでいる国の特徴としては、地方分権や、地方の政党・企業による地方政府間の連携の橋渡しが浸透していること等が挙げられている。とりわけ、地方政府間の信頼関係が連携を深めるうえでのカギとなる。
■ 連携を拒む政治制度
日本で地方政府間の連携が進まない要因には、政治制度の問題もある。例えば、地方政府が採用する二元代表制は、議員がより狭い領域の個別利益に関心を持ちやすく、首長と地方議員間の対立も誘発しやすい。
また、国は全国的な施策の統一性を担保する観点から地方政府に介入し、補助金を通じて地方政府の政策を誘導しようとすることが多い。そのため、隣接する地方政府同士が補助金獲得にあたっての競争相手になりやすい。結果として、国と地方の関係は、実体面で中央集権的となり、地方政府間の連携は低調となる。人口減少等により、地方政府間の連携の必要性がさらに高まっているにもかかわらず、連携の不十分さがさらに顕在化している。
■ 領域を超えるための今後の制度構想
連携中枢都市圏構想のもと、中核市等を中心とした地方政府間の連携は進んでいる。しかし、同構想には、国の補助金によって中核市が慈善的に周辺の地方政府へ公共サービスを提供している側面もあるため、必ずしも対等な連携とはいえない。地方政府自らが国から独立した意思決定を行うことで、広域連携を進めていくことが必要であろう。
今後の具体的な制度構想としては、地方議会の選挙制度について、政党を作りにくく、個別利益追求を促しがちな単記非移譲式の大選挙区制から比例制や連記制に変更するといった改革が求められる。
あわせて、企業が果たすべき役割も大きい。特に公共交通や水道事業、廃棄物処理といった公的サービス事業について、地方政府の枠にとらわれず自律的にサービスを提供させることで、広域的な連携の中核としていくことも重要である。
【産業政策本部】