知的財産分野におけるデジタル化・国際化の進展を踏まえ、先の通常国会において「不正競争防止法等の一部を改正する法律」が可決・成立した(6月7日)。
産業界として、(1)デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化(2)コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続き等の整備(3)国際的な事業展開に関する制度整備――という当該法改正の3本柱を把握しつつ、適切に対応していくことが肝要である。
そこで、経団連は9月13日、東京・大手町の経団連会館で知的財産委員会企画部会(和田茂己部会長)を開催し、経済産業省経済産業政策局の猪俣明彦知的財産政策室長から、(1)令和5年不正競争防止法(不競法)の改正概要(2)営業秘密管理に向けた取り組みと不競法による保護――について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 令和5年不競法の改正概要
他人の商品の形態を模倣した商品(有体物)を譲渡等する行為は、これまでも規制対象であるが、デジタル上の精巧な衣服や小物等の経済取り引きが活発化している実態を踏まえ、デジタル空間における保護を強化すべく、これら商品(無体物)の形態模倣品提供行為(電気通信回線を通じた提供)も規制対象とした。また、秘密管理されているビッグデータについても限定提供データとして保護される範囲を拡大した。
一方、営業秘密の使用等の推定規定の適用対象となる行為類型は、これまでは産業スパイ等の不正取得類型等に限定されていた。しかし、退職者からの漏洩も少なくない実態を踏まえ、退職者や業務委託先による領得行為等も対象とし、法による保護範囲を拡充した。営業秘密を侵害された企業の生産販売能力等を超える範囲についても、損害賠償を認められるよう保護を強化した。
また、国際的な事業展開に対応するため、外国公務員贈賄に対する罰則等を強化、拡充した。
さらに、営業秘密の海外流出も散見されるため、民事訴訟においても日本の裁判所で日本の不競法に基づき提訴できる旨を明確化し、裁判管轄・適用範囲に関する手当てを行った。
■ 営業秘密管理に向けた取り組みと不競法による保護
営業秘密を保護する対策は、営業秘密の漏洩防止レベル(漏洩防止対策)と法的保護レベル(万一、漏洩した場合にも備えた対処)に大別される。
営業秘密の漏洩防止対策として、従業員・退職者からの漏洩を防ぐため、どの情報が営業秘密に該当するのかを確定させる必要がある。
次に、入社時・退職時に秘密保持契約等を結ぶほか、在職者に対して特定の情報へのアクセス範囲を設定したうえで、私物の記録媒体の持ち込みを制限するなどの対策を講じる必要がある。退職の申し出があった場合はアクセス制限を強化するとともに、退職後、速やかに当人のID等を削除すべきである。また、取り引き先からの漏洩を防ぐことも重要であることから、取り引き先との契約時に秘密保持契約を結ぶといった対策を講じるべきである。
秘密情報の漏洩時に法的保護を受けるうえで最大の論点となり得るのは、当該情報が秘密として管理されているか(秘密管理性)どうかである。秘密管理性が認められるためには、当該情報に合法的かつ現実に接触できる従業員等からみて、当該情報が会社にとって秘密としたい情報であることがわかる程度に、アクセス制限やマル秘表示といった秘密管理措置がなされている必要がある。この観点から社内体制に問題がないか確認してもらいたい。
なお、工業所有権情報・研修館(INPIT)等に営業秘密に関する相談窓口を設けているので、活用してほしい。
【産業技術本部】