2020年の大統領選勝利でスタートしたバイデン政権は22年11月の中間選挙を経て「後半戦」に入った。本解説シリーズでは、21世紀政策研究所(十倉雅和会長)米国研究プロジェクトメンバーが、バイデン政権の「前半戦」における主要政策の動向やアメリカ民主主義の現状に関する分析に加え、来たる24年大統領選の展望について8回にわたり連載する。
現在、第二次世界大戦後の国際政治秩序が大きく動揺しつつある。それは、各国とも一方的な力の行使ないしその威嚇によって現状変更を行ってはならないという原則に立脚した国際秩序であり、しばしば法の支配に基づいた国際秩序と呼ばれる。
第1に、ロシアがウクライナを侵略して、力ずくで現状を変更しようとしている。
第2に、中国の変化が重要である。21世紀初頭、多くの識者は中国が経済的に成長するとともに国内体制・対外政策双方が穏健化していき、国際秩序に従う国になることを期待した。しかし、その期待は見事に裏切られた。
第3に、ロシアのウクライナ侵略を中国が正面から批判していないことも、事態の深刻さを増幅している。
第4に、北朝鮮が近年おびただしい数のミサイル発射実験を行っている。
このような状況で、米国が第二次世界大戦後の国際秩序を維持するために、どの程度指導力を発揮するかが問われている。これが第5点である。
16年にドナルド・トランプ氏が大統領に当選したことは、このような文脈で衝撃であった。トランプ氏は選挙戦中から北大西洋条約機構(NATO)を「時代遅れ」と一蹴し、日本と韓国に対して核武装してもよいから自分で国を守れと発言した。そのトランプ氏が25年1月、大統領に復帰する可能性が少なからず存在する。
22年2月にロシアがウクライナ侵略を開始すると、バイデン政権は多数のNATO構成国等と共同してロシアに対する制裁を科し、ウクライナに対する武器提供を含むさまざまな支援も提供した。バイデン政権は法の支配に基づいた国際秩序を擁護しようとしている。
その意思は、基本的に議会にも共有されている。22年5月、米国連邦議会は武器貸与(レンドリース)法を復活させ、ロシアによる軍事侵攻を受けるウクライナや近隣の東欧諸国に対して軍事物資を迅速に提供できるようにした。圧倒的多数での可決であった。
同月、上下両院は400億ドル規模のウクライナ支援法案を可決した。バイデン政権が要求したのは330億ドルであったが、議会がそれを増額したうえで圧倒的多数で可決した。議会はすでに3月に136億ドルの支援を可決していた。
24年の大統領選挙に向けて現段階(23年8月)では、共和党内で10人以上が立候補を表明しているが、トランプ氏が圧倒的な強さを発揮している。トランプ氏はウクライナ支援に批判的である。その最有力対抗馬とみなされているロン・デサンティス・フロリダ州知事も、ロシア・ウクライナ戦争について、ややトランプ氏寄りの発言をしている。党内の支持率で現在3位につけている実業家のビベク・ラマスワミ氏もトランプ氏寄りの外交観を提示している。すなわち、共和党では上位3人の候補者がいずれもウクライナ支援に懐疑的である。共和党下院議員にも同調者が増える傾向がある。
一方、民主党においてはバイデン大統領を含めて3人が出馬を表明しているが、バイデン大統領が優位な情勢に変わりはない。
ちなみに、大統領選挙の展望であるが、バイデン大統領対トランプ氏という仮想レースでの世論調査においては、ほぼ五分五分の結果となっている。
24年に孤立主義的外交観をもった大統領が当選する可能性を見据えて、日本としては、同盟関係を緊密化・深化させて、米国にどのような政権が成立しても、大統領の一存で日本との同盟関係を弱体化させることは決して容易でないと思えるほどの認識と状況をつくり出すことを検討すべきであろう。
とりわけ、日本を米国にとって、広い意味で魅力的な同盟国とすることが肝要である。日本が現在進めている防衛力の強化は明らかにこれに資する。バイデン政権が進める中国・ロシアに対するさまざまな施策についても、可能な範囲で支持するのみならず、積極的に対等なパートナーとして指導力を発揮すべきであろう。
【21世紀政策研究所】