経団連は7月13日、東京・大手町の経団連会館で、米国のウィルマーヘイル法律事務所のジェフ・ケスラー弁護士と懇談し、米国の通商政策に関する最新の動向について説明を聴いた。概要は次のとおり。
バイデン政権における通商政策のスローガンは、「労働者中心の通商政策」である。関税削減に消極的であることに対しては、批判の声も多い。米国が主導しているインド太平洋経済枠組み(IPEF)は、通商枠組みであるものの伝統的な関税削減は交渉対象とされておらず、拘束力を持つルールが策定されるのか不明である。四つの柱のうちサプライチェーンについては合意されたが、経済的に大きな影響をもたらすとは考えにくい。デジタル貿易も交渉の対象であり、日本や豪州は積極的であるが、米国は消極的である。他方、トランプ前政権と異なるのは、国際協調重視の姿勢であり、ロシアによるウクライナ侵略を受け、その傾向は一層強まっている。
■ 対中政策
米国の通商政策に関する議論の中心は、対中関係である。2022年秋以降、米国政府は、中国との対話の場を模索してきた。23年2月、気球撃墜事件のため、ブリンケン米国務長官の訪中が中止となったが、6月、7月にブリンケン米国務長官ならびにイエレン財務長官による訪中が相次いで実現した。現在、11月にサンフランシスコで開催予定のAPEC首脳会議にあわせて、米中首脳会談の開催が模索されている。
一方で、米国議会は対中強硬色が依然として強く、中国に関するさまざまな法案が提出されている。対外投資規制については、影響が広範囲に及ぶ可能性に対して経済界から懸念が寄せられているが、イエレン長官は、対中投資全般に影響を与えるような広範囲の規制にはならないと説明している。また、経済的威圧対抗法案では、威圧の対象となったパートナー国への支援が盛り込まれている。さらに、一定額以下の輸入貨物について非課税とするデミニマスルールが抜け穴となり、米国企業に不利な競争条件が築かれているのではないかという議論も注目されている。ウイグル強制労働防止法(UFLPA)についても、議会からは執行強化を求める声が多く上がっている。
■ 貿易と環境
米国は、EUが導入予定の炭素国境調整措置(CBAM)について、自国を含む同盟国を適用除外とすることを求めているが、EUは、無差別原則などWTO整合性が確保できるか懸念があるとして、米国提案を受け入れていない。10月が合意の期限とされている、米通商拡大法232条に基づき課している鉄鋼・アルミニウム製品への関税について、EUを恒久的に適用除外とする交渉とも関係している。同様に10月から、EUに輸出する企業はCO2排出量について報告義務を負うが、測定方法について国際基準がなく、米国企業も十分な備えができていないだろう。環境規制の緩い国からの輸入品に課す国境炭素税の導入については、公正な競争条件を確保するツールとして支持する議員が超党派で存在する。一方、同盟国に意図しない悪影響を与えないためにはどのように設計すべきか、米国内でも十分な議論がなされていない。このため今後、EUの動きをみながら、米国政府も導入を検討する可能性がある。
【国際経済本部】