経団連は7月4日、金融・資本市場委員会ESG情報開示国際戦略タスクフォースをオンラインで開催した。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の小森博司理事から、6月に公表された「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(IFRS-S1)、「気候関連開示」(IFRS-S2)基準について、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ ISSB基準策定の背景
近年、サステナビリティ情報開示への関心の高まりとともに、多数のサステナビリティ開示基準が乱立した。このため、投資家からは比較可能性を求める声が高まり、企業からも開示ルールの統合を求める声が聞かれるようになった。こうした状況のなか、ISSBは6月26日、初めてのグローバルなサステナビリティ関連情報の開示基準となるIFRS-S1およびIFRS-S2を公表した。S1・S2は、新たに一から開発するのではなく、既存の複数の開示基準を取り込むかたちで、世界中で使用される共通のルール(グローバル・ベースライン)として設計した。各国当局はこのベースラインに、固有の要求事項を追加することができる(ビルディング・ブロック・アプローチ)。ISSBは、日本の制度開示における要求事項が、S1・S2が定めるベースラインの上に、日本独自の要求事項が追加されるかたちになることを許容している。
■ IFRS-S1およびIFRS-S2について
ISSBは、S1・S2において、重要性のある情報を開示することを要求しているが、当該重要性については、会計基準と同様に「投資家の意思決定に影響を与えると合理的に予想し得る場合に重要性がある」と定義した。この定義に照らし、どの情報に重要性があるかを判断できるのは企業のみである。各企業には、投資家との建設的な対話を通じて、重要性のある情報をそれぞれ特定してほしい。
S1・S2では産業別開示についても定めている。現状のSASB基準に基づく産業別開示は米国色が強い。公開草案を公表した際には、日本のみならず、アジア・ヨーロッパの各国から、そのまま義務化することを懸念するコメントが多かった。このため、今回公表したS1・S2最終版では、SASB基準を「開示の義務付けはないが、各企業が必ず参照しなければならない」(shall consider)位置付けとした。ISSBは、SASB基準を米国以外の世界各国でも受け入れ可能な基準にすべく、現在改訂作業を進めている。将来的に国際的調和が図られたSASB基準が義務化されることを見据え、今からSASB基準に慣れてもらいたい。
また、S2で定める温室効果ガス(GHG)排出量(スコープ3=企業のバリューチェーン内で発生する他のすべての間接排出)の開示については、公開草案で、測定の困難さ、見積もり要素が強いこと等を理由に、現時点での開示義務付けに慎重な姿勢を示すコメントも多く寄せられた。一方で、投資家からは当該情報を求める声が多かったこともあって、結論としては開示を義務化することにした。ただし、一定の緩和策(適用初年度は、財務報告との同時開示ではなく中間決算までの公表を認めること、スコープ3の開示を不要とすること等)を定めている。
また、ISSBは、気候変動の次のテーマにも取り組むべく、5月に情報要請「アジェンダの優先度に関する協議」を公表(コメント期日は9月1日まで)している。
■ 日本に対する期待
日本は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同する企業・機関数が世界最多で、統合報告書の提出会社数も多く、SASB基準を参照する企業数も増加傾向にある。日本企業には今まで蓄積してきた貴重なノウハウがあり、今回公表したS1・S2をうまく活用しつつ、より高いレベルのサステナビリティ開示を積極的に目指してほしい。
【経済基盤本部】