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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年7月27日 No.3600 21世紀政策研究所がシンポジウム「『強国』建設に向けた中国の戦略」を開催

川島研究主幹

21世紀政策研究所(十倉雅和会長)の中国研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学大学院総合文化研究科教授)は7月3日、会員企業から約200人の参加を得てシンポジウム「『強国』建設に向けた中国の戦略」を開催した。米中対立やウクライナ侵攻に揺れる世界情勢のなかで、世界の強国としての中国の戦略を読み解き、その目的や背景を分析した。概要は次のとおり。

■ 経営学的知見と「内部資料」に基づく習近平のリーダーシップ試論
(鈴木隆大東文化大学東洋研究所教授)

鈴木氏

習近平国家主席は今や中国の最高実力者である。強いリーダーになれたのは、門閥(共産党の元高級幹部の子で組織される)と地方指導者時代の人脈、政敵を粛清した反腐敗闘争の功績に加え、サブリーダーたちへの働きかけによる。毎年2日間にわたり開催される「民主生活会」という会議では、サブリーダーたちを集め、業務に対しての批判や自己批判を行っている。この民主生活会をはじめ、心理的な圧迫や時間をかけた説得で、自身への服従を納得させる機会を制度化している。

■ 中国の産業高度化とグローバルバリューチェーンの再編
(丁可ジェトロ・アジア経済研究所主任研究員)

丁氏

中国は2010年代に入り、労働集約的な組立加工産業から、より技術や資本集約度の高い中間財産業へシフトする産業の高度化を進めており、ベトナムやタイが中国から中間財を輸入し最終財を組み立てる新たなグローバルチェーンが確立されつつある。他方、外資系企業の中国依存度は依然高い。例えばAppleは、サプライヤーの製造拠点の95%以上が中国にあり、生産能力の10%を中国から海外に移転させるだけで8年かかると推測されている。米国による半導体の規制は厳格化傾向にあるが、中国は非先端半導体への投資拡大、次世代半導体技術への取り組みなどを進めている。

■ グローバルガバナンスにかかわる中国の関連構想と行動
(廣野美和立命館大学グローバル教養学部教授)

廣野氏

国際秩序が変革期を迎えるなか、中国がグローバルガバナンスをどう考えているかは大きな問題である。この問題を「一帯一路」と、21年9月の国連総会で習近平主席が提案した「グローバル開発イニシアチブ(GDI)」の二つの構想から分析する。一帯一路は、二国間がウィンウィンの関係となるようハードインフラに力点を置いているのに対し、GDIは多国間主義であり、キャパシティービルディング、教育、環境、SDGsなどのソフトインフラを強調している。二つの構想は共存関係にある。一方、途上国は、中国のイデオロギーに興味はなく、自国の利益に基づく中国観を醸成している。

■ 台湾情勢の行方(川島研究主幹)

「台湾有事」をめぐる問題では、米国と中国の動向に注目しがちだが、台湾の内部を理解することが重要である。「独立か」「統一か」を尋ねる台湾国内の意識調査では、「現状維持」「やや独立」が8割だった。「統一」を望む人はほぼおらず、中国は武力侵攻しないという見方も根強い。中国の目下の台湾統一政策は、軍事力による威嚇、「グレーゾーン」工作(フェイクニュースやサイバー攻撃など)、経済制裁である。24年に予定されている総統選挙では、今のところ民進党の頼清徳が優位である。争点は、中国との距離感だけでなく、経済、社会生活、人口減少への対応など、多々ある。

<パネルディスカッション>

続いて、川島研究主幹がモデレーターを務め、講演者3人との間でパネルディスカッションを行った。川島研究主幹は講演を総括し、(1)世間一般でいわれる中国の見方が実態と少し違うこと(2)大事な点は、多様なアクターを想定し、全体を丁寧にみること――などを強調した。また、「習近平政権の求心力低下の不安要因」「失業や格差といった社会的な問題と経済成長」「一帯一路の今後」「一帯一路に対する国内の評価」などの論点で講演者と議論を深めた。

【21世紀政策研究所】

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