経団連は6月16日、企業行動・SDGs委員会(吉田憲一郎委員長、西澤敬二委員長、中山讓治委員長)を開催した。静岡県立大学の石川准名誉教授(元国連障害者権利委員会副委員長・前内閣府障害者政策委員長)および内閣府の立石祐子参事官(障害者施策担当)から、2024年4月に施行される改正障害者差別解消法について、また、企業や自治体向けにユニバーサルデザインのソリューションを提供するミライロの垣内俊哉社長から、障害を価値に変える「バリアバリュー」の取り組みについて、それぞれ説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。
■ 障害者権利条約からみる障害者差別解消法改正の意義(石川氏)
障害者差別解消法は、障害者が日常生活で受けるさまざまな「制限」は社会側に存在する障壁によって引き起こされるという障害の「社会モデル」に基づいて、行政機関や事業者に対して「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供」を求めている。
21年の同法改正により、これまで努力義務であった事業者による「合理的配慮の提供」が義務化された。これは、日本が14年に批准した国連障害者権利条約と整合するものであり、国連障害者権利委員会からも高く評価された。
社会的障壁を前もって取り除く「環境整備」と、実際に具体的な社会的障壁に直面した障害者の要求に対応する「合理的配慮」を車の両輪として進めることにより、多様性と包摂性のある社会に向けて前進することができる。
■ 障害者差別解消法改正の要点(立石氏)
改正法のポイントは、事業者による合理的配慮の提供の義務化である。事業者は、障害者から社会的障壁の除去を求める意思表明があった場合に、過重な負担とならない範囲での対応を個別の事案ごとに真摯に検討することが求められる。その際は、事業者と障害者が建設的対話を通じて相互に理解し、さまざまな対応策を柔軟に検討する姿勢が重要である。
事業者は、障害者からの相談に適切に対応するため、事前に相談窓口を決めて、組織体制を整えておくことが必要である。また、相談者のプライバシーに配慮しつつ相談事例を蓄積し、合理的配慮の提供やマニュアルへの反映に活用してほしい。
■ 企業の具体的な取り組みのあり方(垣内氏)
今後、事業者は、(1)施設におけるユニバーサルデザイン対応(2)インクルーシブ視点の商品開発(3)ユニバーサルマナーの習得(4)情報保障(障害のある人が情報を入手するにあたり必要なサポートを行うこと)(5)ウェブアクセシビリティー ――の5分野における取り組みを進める必要がある。例えば、1点目については、施設の企画・設計段階からバリアをつくらないよう配慮し、バリアが現存する場合は、事前に情報を開示することが重要である。また、4点目については、今後、手話や文字起こしでのコミュニケーションに対応する企業は国内外問わず増加するだろう。
当社は障害者手帳のスマートフォンアプリを開発した。現在、3800以上の事業者がこれを導入している。施設・店舗での本人確認や決済など、その利便性の向上を図っている。
高齢者は加齢に伴い、視覚・聴覚・歩行に制約が生じるため、高齢者ニーズは障害者ニーズを統合したものといえる。これに先んじて応えることは新たなビジネスチャンスととらえることもできる。事業者には、社会性と経済性の両立の観点から、改正法の趣旨を踏まえた取り組みを継続してほしい。
【SDGs本部】