経団連は3月15日、クリエイティブエコノミー委員会(南場智子委員長、村松俊亮委員長)と同エンターテインメント・コンテンツ産業部会(村松俊亮部会長)の合同会合を開催した。Re entertainmentの中山淳雄社長から、日本・韓国それぞれのエンターテインメント・コンテンツ産業の振興に向けた取り組みと、コロナ禍における海外展開戦略について説明を聴くとともに懇談した。概要は次のとおり。
■ エンタメコンテンツ業界へのコロナエフェクト
日本のコンテンツ市場は、2006年以降全体の規模が成長していない。そうしたなか、20年のコロナ禍によって劇場や放送分野の売り上げが大きく縮小した一方で、ネットワークを活用したコンテンツの市場規模が拡大した。この変化は、06年から19年までのトレンドが加速しただけであり、驚くものではない。国内に盤石な市場があったことで進まなかった日本のコンテンツ業界のデジタル化が、コロナ禍によって進まざるを得なくなり、これまで例外的であった日本市場もグローバルスタンダードに収斂されたといえる。
■ アニメ分野の飛躍
日本アニメの市場は10年ごろから大きく伸びた。特に海外市場の拡大が著しく、この点に日本の海外展開に向けたヒントが隠されているといえる。アニメはテレビ放送だけでなく、劇場版の上映やゲーム、グッズ等への展開が可能な、まさにメディアミックスな分野である。近年はアニメファンが複数回映画館を訪れることも一般的になってきている。今後はこうしたかたちでアニメ作品自体を運用していくことが重要になる。
「鬼滅の刃」を例にとると、テレビ放送が終わった後、いったんブームが落ち着いたようにみえたが、その1年後の劇場版の公開に向けて飲食店やモバイルゲームとのコラボに積極的に取り組み、コロナ禍の巣ごもり需要も相まって、子どもから大人までを巻き込み続け、結果として史上最高の興行収入をあげるに至った。コンテンツはサービス化しており、いかにファンベースを蓄積し、ユーザーを巻き込むことができるかが焦点になる。
■ 日韓の比較
韓国にはコンテンツ振興院(KOCCA)という日本の総務省、経済産業省、文化庁等を統合したような政府系機関があり、コンテンツへの支援を一元的に行っている。一方、日本は各省庁がそれぞれ支援制度を運用しており、この点で大きな差が生じている。その背景には1997年の韓国通貨危機がある。韓国政府は再立国の軸を「ソフトパワー」に定め、トップダウンで関連産業の振興に取り組んできた。結果として、特に音楽・出版・放送分野において日本に大きく差をつけ、BTSをはじめ世界に誇るタレントを輩出した。
両国の芸能事務所の事業別売り上げを比較すると、日本のエイベックスやアミューズはコロナ禍によって音楽ライブとともに、アルバムやグッズ、ファンクラブの売り上げも減少した。一方、韓国のHYBEは、2020年の音楽ライブの売り上げがゼロに近かったが、コロナ禍でもアルバムやライセンスの売り上げを伸ばし、年々その規模を拡大している。これは自社プラットフォームにおける音楽配信チケットの販売や、ECサイト・SNSサイトとの相互連携、YouTubeの活用等、コンテンツのデジタル化において優位性があったことが要因である。
今後日本には、アニメや韓国の成功例を踏まえ、コロナ禍によって顕在化したデジタルとグローバルの課題克服に向けて、ファンベースのビジネスを展開することが求められる。
【産業政策本部】