経団連は3月2日、東京・大手町の経団連会館で宇宙開発利用推進委員会(漆間啓委員長)を開催した。防衛省防衛政策局の安藤敦史次長から、「国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画と宇宙政策」について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 国家安全保障戦略
政府は2022年12月、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画を閣議決定した。国家安全保障戦略は、国家安全保障に関する最上位の政策文書である。わが国は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。周辺国ではミサイル関連技術と運用能力が飛躍的に向上し、わが国へのミサイル攻撃が現実の脅威になっている。
わが国は総合的な国力を用いて、戦略的なアプローチを実施する。自由で開かれた国際秩序を強化するための外交、防衛体制の強化、米国との安全保障面における協力の深化、サイバー・海洋・宇宙等のわが国を全方位でシームレスに守る取り組みの強化、経済安全保障政策の促進等を組み合わせる。
■ 国家防衛戦略と防衛力整備計画
国家防衛戦略は、防衛の目標を設定し、それを達成するための方法と手段を示す。防衛力整備計画は、わが国として保有すべき防衛力の水準を示す。
国家防衛戦略の基本方針に沿って、防衛力を抜本的に強化する。わが国への侵攻そのものを抑止するために、遠距離から侵攻勢力を阻止・排除する「スタンド・オフ防衛能力」や「統合防空ミサイル防衛能力」を強化する。
防衛力整備計画では、今後5年間(23~27年度)の防衛力の抜本的な強化を実現するための防衛力整備の水準にかかる金額を43兆円と明記した。23年度は当初予算のみで6兆8000億円を計上しており、22年度より1兆4000億円増となる。
■ 防衛省・自衛隊の宇宙政策
主要国が早期警戒、通信、測位、偵察機能を有する各種衛星の能力強化や機数増加に注力しており、昨今は中国の軍用衛星の増加が顕著である。防衛省・自衛隊の宇宙政策では、三つの課題に対応している。
一つ目に、衛星通信の安全性と容量の確保が必要である。米国を中心とする加盟国間で通信帯域を共有する枠組みへの参加や次期防衛通信衛星の開発・製造とともに、民間の衛星コンステレーションの通信サービスの利用の実証を行う。
二つ目に、従来のミサイル防衛システムでは、極超音速滑空兵器(HGV)等の迎撃が難しくなっている。宇宙センサで地上目標やHGV等をとらえることが重要になってきている。そこで、衛星を活用したHGVの探知・追尾などに必要な技術の実証等を行う。
三つ目に、中国などの衛星破壊実験によりスペースデブリが増加し、宇宙空間の安定的利用に対する脅威が増大している。26年度までに宇宙領域把握衛星の製造・取得を行うとともに、複数機による運用の検討等で宇宙空間の安定的利用を確保する。
防衛省の過去5年間の宇宙関係予算は約3000億円であったが、今後5年間で約1兆円に増加させる。令和5年度予算案では過去最大の約1844億円を計上している。
■ 宇宙安全保障構想と宇宙基本計画
22年12月、岸田文雄内閣総理大臣が23年夏をめどに宇宙の安全保障構想を策定し、これを踏まえ、宇宙基本計画を改定するよう指示を出した。
宇宙の安全保障構想および宇宙基本計画は、わが国の宇宙政策の方向性を示し、政府関係機関や民間企業等に予見可能性を与えるものである。防衛省としては、宇宙の安全保障構想に防衛力整備計画の内容や防衛省・自衛隊のニーズを反映させていく。これらを通じ、防衛省は宇宙航空研究開発機構(JAXA)をはじめ政府関係機関や民間企業の高い技術力を積極的に安全保障・防衛目的に活用することや、新たな技術開発が促進されることを期待している。
【産業技術本部】