21世紀政策研究所(十倉雅和会長)の中国研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学大学院教授)は2月20日、会員企業から約200人の参加を得てシンポジウムを開催した。習近平体制が現在抱える内政、経済、外交等の課題について、経緯や背景も含めて分析した。概要は次のとおり。
■ 3期目を迎えた習近平政権~党・国家・社会におけるリーダーシップのかたち
(小嶋華津子慶應義塾大学教授)
習近平国家主席に権力が集中した背景には、一党支配体制崩壊への危機意識がある。共産党指導部の亀裂や汚職、そして西側勢力からの攻撃に備えるためには、個人崇拝と思われようが、長期政権になろうが、強い指導者が必要だという党内の合意がある。実際にこの10年、政府に代わり党が前面に出る体制がつくられ、規範や法による統治が行われ、違反行為への取り締まりが行われた。しかし3期目の党人事からは、習近平はやむなく権力を掌握した有徳者ではなく、権力の私物化にいそしむ独裁者ではないかという見方も出てきている。二つの見方のどちらが正しいか、今後の経済の安定と発展、福祉の向上を実現できるかにかかっている。
■ 中国の不動産問題と合理的バブル
(梶谷懐神戸大学大学院教授)
中国の不動産市場の低迷には四つの側面がある。一つ目は、個別の不動産企業の経営不安。二つ目は、コロナ禍での景気対策、つまり金融緩和中心で、財政対策が不十分というマクロ経済政策である。三つ目は、中国が進めてきた新型都市化政策(50万人規模の中小都市に農民を集める)で、これらの中小都市の不動産は飽和状態にある。四つ目は、リーマンショック以降に発生した「合理的バブル」の終焉である。櫻川昌哉氏の『バブルの経済理論』によれば、資産バブルには、人々が投機的に売買するものと、より持続的なものの2種類がある。「合理的バブル」は後者であり、中国にも当てはまる。住宅取得過熱の要因には、老後の生活への不安もある。経済安定のためには、不動産問題だけでなく、社会保障の充実など、高齢化に対応した制度設計を進めていく必要がある。
■ 中国外交の動向~米中対立とグローバルサウス外交
(山口信治防衛研究所主任研究官)
米中対立は、昨今の気球事件により、信頼関係の回復が見込めない。気球事件は、中国軍によるプログラムの一つを実行したにすぎないが、中国共産党指導部との関係性が問題を複雑にしている。一方、中国はグローバルサウス(途上国)外交に注力する。中東、中央アジア、南太平洋にまでパートナー国を拡大し、体系化を図り、そのアジェンダも経済だけにとどまらず、政治、安全保障上の協力などにまで踏み込む。多国間枠組みにも積極的で、特にBRICS、SCO(上海協力機構)の拡大、充実が図られている。軍事同盟反対の立場を維持しつつ、米国との長期的対立に備え、信頼できる協力国を得たいがための戦略である。
<パネルディスカッション>
講演後、川島研究主幹と3氏によるパネルディスカッションを行った。「経済成長以外の国民へのインセンティブ」「リスク、コストの面から、短期的な台湾への軍事侵攻は考えにくい」「中国外交における内政不干渉原則の変更の可能性」「中央政府による地方政府への干渉がビジネスに与える影響」「グローバルサウス外交は各国の目線が重要である」「経済と安全保障の両立のためには日本政府は規制対象を限定し明示するべき」などの指摘があった。
【21世紀政策研究所】