経団連は2月24日、東京・大手町の経団連会館で、開発協力推進委員会(安永竜夫委員長、遠藤信博委員長)を開催した。国際協力機構(JICA)の山田順一副理事長から、JICAの最近の取り組みと今後の展望について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 開発協力をめぐる現状
世界は今、複合的な危機に直面している。例えば、ロシアのウクライナ侵攻や米中対立など国際秩序に構造的変化が生じるとともに、気候変動、環境問題、自然災害など、先進国、途上国によらず地球規模の課題が山積している。そうしたなか、気候変動、新型コロナウイルス感染症や、ウクライナ危機による食料需給の逼迫により、特に脆弱性の高いアフリカなどの途上国は、1人当たりGDPが10年前の水準に逆戻りするなど経済的に大きな影響を受けている。また、米国の金利上昇を契機に、開発資金が途上国から引き揚げられる傾向にある。
■ JICAは多方面にわたる取り組みを推進
かかる状況のもと、わが国のODAの重要性は増大しており、JICAはさまざまな取り組みを行っている。
具体的には、わが国の海洋安全保障を確保するため、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のもと、インド太平洋地域において、わが国シーレーン沿岸国等の海上保安能力向上のための技術協力や資金協力を行っている。また、「JICAアフリカ食料安全保障イニシアティブ」に基づく食糧生産や栄養改善、農業人材の育成を通じた食糧安全保障への貢献、ウクライナや震災被害を受けたトルコやシリアへの支援によって、世界の平和と安定に貢献している。
わが国の経済力向上の観点から、サプライチェーンや基幹インフラの強化を通じたわが国と途上国との戦略的経済関係の強化や、法制度の整備、人材育成による自由や民主主義、法の支配など普遍的価値の実現にも取り組んでいる。気候変動問題への対応では、各国のパリ協定の実施に向けて、ホスト国における開発課題の解決と気候変動対策の同時達成を図る「コベネフィット型気候変動対策」の実施、環境問題については、「JICAクリーン・シティ・イニシアティブ」に基づき、廃棄物管理や汚水処理など、日本の経験・教訓・技術を活用した効果的な支援を行っている。
こうした取り組みにあたっては、民間企業との連携も重要であり、「中小企業・SDGsビジネス支援事業」や、JICAによる海外投融資の拡大、PPP(Public Private Partnership)事業への協力を実施している。
■ わが国の特色を活かし総合力で勝負する
わが国のインフラシステムの海外展開は、中国など新興国との価格競争などを背景に厳しい状況にあるが、他国との差別化を図ることが重要である。例えば、人材育成を含めたガバナンス支援の強化や、入札における透明性の確保および経済性・効率性の徹底など「質の高いインフラ」の堅持、国際競争入札による国際商習慣の浸透や下請け企業の育成など、総合力で勝負することが求められる。JICAは、具体的な技術・製品・サービスを提供する日本企業と今後一層の協力や連携を図っていきたい。
【国際協力本部】