経団連の中東・北アフリカ地域委員会(佐藤雅之委員長)は11月29日に会合を開催し、外務省中東アフリカ局の西永知史参事官から、最近の中東地域の政治経済情勢について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 中東地域の戦略的重要性はエネルギー調達にとどまらない
中東地域は日本にとって以下の3点により戦略的に重要である。第1に、潜在性あふれる市場である。人口増加率が高く、若年層、中間層や富裕層が拡大しており、市場規模はEUやASEANに匹敵する。第2に、エネルギー資源の宝庫である。日本は原油輸入の約9割、LNG輸入の約2割を中東地域に依存しており、現下の国際情勢においてその割合はますます高まっている。第3に、物流の要衝である。地理的に日本のシーレーンの要衝に位置しており、エネルギーをはじめとする重要物資の調達・輸送に果たす役割は大きい。
中東情勢は不安定である一方、わが国は、個々の国・地域と大変良好な関係を有しており、中東諸国の評価も非常に高い。米国との同盟関係や中東諸国との伝統的な友好関係を活かし、地域情勢の安定に貢献していくことが、中東地域との外交における基本方針である。
■ 重要な対立軸はサウジとイラン
~イスラエルとアラブ諸国の関係改善を注視
複雑かつ不安定な中東地域において、注視すべき重要な対立軸はサウジアラビアとイランである。現在、イランはヒジャブの着用をめぐる国内問題、ロシアへのドローン供与による国際問題に加え、イラン核合意(JCPOA)への復帰に関する国際的取り組み等、国内外に多くの問題・課題を抱えている。JCPOAは2021年12月から第8ラウンドが続いており、一時は最終合意に至るかと思われた。しかし、国際原子力機関(IAEA)との間で本来解決すべきイランの保障措置に関する議論、22年9月中旬から発生したイラン国内の抗議運動(ヒジャブデモ)が影響したため、ブリンケン米国務長官は、近い将来にJCPOAが合意に至ることはないと発言したところである。
他にも、イスラエルとアラブ諸国の対立も、長年にわたる懸念事項である。ただし、近年では、トランプ政権時以降、イスラエルとアラブ諸国との間で、国交正常化に向けた動きが活発化している。具体的に20年には、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン、モロッコが国交正常化に合意した。日本は、22年1月のUAE-Japan-Israelイノベーションフォーラムの開催、日イスラエル経済連携協定(EPA)に関する共同研究の立ち上げ(11月に発表)などを通じて、アラブ諸国やイスラエルとの経済関係の強化を進めている。こうしたイスラエルとアラブ諸国の関係正常化に、日本として外交的にいかに対応していくのか、慎重に議論していく必要がある。
【国際協力本部】