経団連は10月5日、東京・大手町の経団連会館で危機管理・社会基盤強化委員会企画部会(工藤成生部会長)を開催した。経済産業省の田中一成商務・サービス政策統括調整官から、医療機器の生産強靱化および医薬品のサプライチェーン強靱化に関する政府の取り組み等について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
■ 医療機器について
日本は医療機器、とりわけ治療系医療機器の多くを輸入に依存している。そのため、新型コロナウイルスの感染拡大初期に輸入ルートの途絶や諸外国による輸出制限が生じるようになると、国内の流通が不足する事態に直面し、生産強靱化が課題であることが浮き彫りとなった。医療機器の生産体制の強化に関しては、平時から、開発、製品化、流通、備蓄、供給管理までサプライチェーンを俯瞰したリスクアセスメントを行い、部素材の供給途絶などが起こらないよう、官民で対応していく必要がある。経産省としては、一定の要件を満たした事業者に対して設備投資補助や研究開発補助等、政策面で支援している。加えて、高齢化の進展や新興国の国内需要の拡大等に伴い、医療機器産業は今後さらなる需要の伸びが見込まれることから、他業界の中小企業が医療分野に参入する、あるいはその事業を再構築することに対しても支援している。新産業創出を通じた経済成長により、健康長寿社会の形成を図っていきたい。
また、医療機器の安定供給に取り組んでいく。具体的には、平時において、経済安全保障推進法に基づき特定重要物資を指定し、生産技術開発、生産基盤の整備や供給源の多様化などを進められるかどうか検討していく。また、有事に際しては、今後改正される見込みの感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)に基づき、(1)感染症の対応に必要な医療機器(2)医療機器の生産に必要な物資および資材――の二つに該当する物資について、事業者に対して生産・輸入の要請・指示や、異業種事業者に対する生産協力要請等を円滑に行えるようにする。
■ 医薬品サプライチェーンの強靱化と創薬ベンチャーエコシステムの確立に向けて
日本は新型コロナワクチンの開発に出遅れたため、国内で接種するワクチンのほぼ全量を輸入に依存しただけでなく、調達・接種開始時期も主要国と比較して遅れた。国家の危機管理として、新たな創薬技術を含め、ワクチンの国内開発・生産体制の構築が急務となっている。
世界ではベンチャー企業が創薬開発の担い手となっており、ファイザー、モデルナのワクチンもベンチャー企業が開発した。日本でも創薬ベンチャーを底上げしたいが、国内の創薬ベンチャー企業の資金調達額は諸外国と比較して極めて小さい。とりわけ、前臨床から第2相臨床試験フェーズにおける資金力不足が、バイオベンチャーの成長プロセスにおける大きな壁となっている。このフェーズを乗り越えられるか否かがカギであることから、経産省では認定ベンチャー・キャピタルによる出資を受けている事業者に対して補助を行う予定である。また、次世代治療・診断の実現、再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業に対しても補助を行っている。こうした支援を通じて日本の創薬力を高めていきたい。
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講演後、他省庁との連携や、医療機器に使用する素材のR&D投資などについて、活発に意見を交わした。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】