経団連は8月30日、社会保障委員会年金改革部会(出口博基部会長)を開催した。ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫上席研究員から、「公的年金制度の課題と次期改革に向けた論点」について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 公的年金制度のポイントと課題
日本の年金制度は、かつて働き方等によって制度が分立し、制度間で有利・不利の差があった。しかし、1986年の基礎年金の創設、2015年の被用者年金の一元化等により、その差は小さくなっている。
少子化や長寿化の進展といった人口構成の変化にも、対応が進められてきた。近年では04年に大きな改正が行われ、厚生年金の保険料率の引き上げを18.3%で止め、その代わりに年金の給付水準を徐々に引き下げるマクロ経済スライドが導入された。マクロ経済スライドは、少子化や長寿化の影響を吸収して年金財政を安定させるだけでなく、受給者の年金額を調整して世代間の不公平感も改善する。
現行制度の課題は、将来的な基礎年金の水準の大幅な低下である。19年の将来見通しでは、高い経済成長が実現し、かつ足元の出生率が維持されるケースでも、将来の厚生年金が数%の低下にとどまるのに対し、全員共通の基礎年金は約3割も低下する見通しとなっている。
■ 20年改正と残された課題
20年改正では、年金額の調整による目減りを補うため、厚生年金の適用拡大や、繰り下げ受給の上限拡大、高齢期の就労を促進する見直し等が行われたが、厚生労働省の素案からは縮小した内容となった。そこで、改正法には、所得再分配機能や適用拡大等、次期改革に向けた検討を政府に義務付ける附則も盛り込まれた。
■ 次期改革で想定される論点
次期改革では、20年12月に厚労省が公表した追加試算が一つの軸になろう。追加試算では、基礎年金と厚生年金の調整期間の一致という新たな改革案が示された。現行制度は、厚生年金よりも基礎年金の調整期間が長いため、基礎年金が大幅に低下し、低所得の会社員ほど年金額の目減りが大きい。そこで、両者の調整期間を一致させることで、全員の給付水準の低下率を等しくする。
この見直しには、基礎年金創設当初の理念に立ち返り、基礎年金を全員で支えるかたちに戻すという意義がある。加えて、現行制度を続けた場合と比べて、厚生年金の水準はやや低下するが、それ以上に基礎年金の水準が上昇することで、多くの世帯で給付水準が上昇する。
追加試算では、基礎年金の拠出期間を40年から45年に延長する案も示された。過去の改正議論では、延長期間分の国庫負担の財源確保が必要となるため、財務省が反対していた。そこで今回は、延長期間分の財源はすべて保険料で賄う案もあわせて示された。
今後の議論に向けて、現行制度のままでは低所得の会社員ほど不利である点や、見直し案でも会社員の保険料負担自体は変わらない点などを、共通認識として広める必要がある。また、調整期間の一致により公的年金の水準が低下する一部の高所得層には、資産所得倍増プランを通じた自助努力の拡充で対応することが考えられる。
このほか、厚生年金のさらなる適用拡大や、在職老齢年金制度の見直し等も、就労促進の観点から次期改革の論点となろう。
【経済政策本部】