経団連の通商政策委員会企画部会(神戸司郎部会長)は8月30日、ウェンディ・カトラー アジア・ソサエティ政策研究所(ASPI)副所長の来日の機会をとらえ、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。説明の概要は次のとおり。
■ IPEF
バイデン政権には、通商政策の戦略がないと批判されるが、その認識は誤りである。例えば、米国が立ち上げたインド太平洋経済枠組み(IPEF)に関しては、9月初旬に閣僚会合が予定されている。IPEFの四つの柱(貿易、サプライチェーン、クリーン経済、公平な経済)のそれぞれについて、交渉の範囲と参加国が発表されるとともに、交渉の開始が宣言される見込みである。
市場アクセスが含まれないIPEFにおいて、ハイレベルなルールを策定し成果を挙げるためには、一部の分野で合意が形成された段階で、その分野に関してのみ合意したという旨を発表する「Early harvest」の手法が採用されるだろう。同手法により、IPEFのイニシアティブ自体の信頼性が高まり、他分野での合意にもつながりやすくなることが期待される。特に、貿易円滑化とサプライチェーンの強靱化が、Early harvestに至りやすいと考えられている。
■ 対中戦略
米中の関係が緊張するなか、バイデン政権が今後採り得る通商政策について、次の三つがうわさされている。
第1は、対中関税の撤廃・削減である。特に、中国からの消費財に賦課されている関税の撤廃・削減を通じ、インフレの緩和につなげることで、米国内の中産階級を支援するねらいがある。第2は、対中追加関税の適用除外の部分的な復活である。現在、通商法301条に基づいて対中追加関税が発動されている。これについて、米国民の負担となる関税効果を削減すべく、特定製品への関税の軽減を米国通商代表部(USTR)に申請可能とする手続きを再開する動きがある。第3に、同301条に基づく新たな制裁関税の発動も視野に、中国の産業補助金に関する調査の開始が検討されている。
対中の観点から、台湾との通商協議も活発化している。例えば、非市場経済や国有企業などの問題に関し、米台協力の深化を目的とする公式協議が開始される予定である。また、米上院の外交委員会は、台湾との関係強化に向けた法案の提出を検討しており、これには台湾のIPEF参加や米台FTAの成立を求める内容が盛り込まれている。
さらに、先般成立したCHIPSおよび科学(CHIPSプラス)法のなかでは、半導体の国内製造の促進に向けて、半導体産業への資金援助が規定される。この資金援助を受ける企業に対して、中国への投資を大幅に増額したり、既存投資を拡大したりすることを禁ずる、いわゆるガードレール規定が存在する。中国はこれを強く批判しており、米国企業は、今後のビジネス展開の方針について検討が迫られている。
【国際経済本部】