経団連は8月5日、「裁量労働制 好事例セミナー」を開催した(9月8日号既報)。四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎氏、川崎重工業人事本部人事労政部労政課長の鈴木健朗氏、トヨタ自動車人事部労政室長の鬼村洋平氏が登壇した。今号では、2社の取り組みと、登壇者3人によるパネルディスカッションの模様を紹介する。
■ 事例紹介(1)川崎重工業(鈴木氏)
川崎重工業は、(1)自主性の尊重や生産性の向上(2)成果に対して報酬を支払う仕組みづくり(3)主体的に業務を遂行する風土の醸成――を目的に裁量労働制を活用している。適切に制度を適用するとともに、その運用を徹底するため、適用対象者に職務等級要件を設けている。このほか、適用者が制度趣旨に沿わない働き方をしている、あるいは長時間労働になっている場合に制度の適用を解除している。さらに、裁量労働制適用者に限って、業績・成果に応じて賞与の金額が変わる裁量加算を行うなど、成果主義的に処遇すべく工夫している。
■ 事例紹介(2)トヨタ自動車(鬼村氏)
トヨタ自動車は、技術革新「CASE」(注)が進む環境激変期に置かれている。新領域での国際競争は社内の技術・知見が通用せず、社員一人ひとりの創造的な能力発揮が極めて重要になるとの認識から、社員が自律的・自主的に働く意識改革、組織風土を醸成する仕組みとして、今後一層裁量労働制を活用していきたい。制度を厳格に運用すべく、制度適用者を管理職一歩手前の職層に限定している。このほか、PCの起動時刻や入退場時刻を根拠に算出する労働時間が単月もしくは複数月で一定の時間を超えた場合、また休日出勤時間が一定の時間を超えた場合に制度の適用を解除している。
<パネルディスカッション>
(パネリスト=鈴木氏、鬼村氏、ファシリテーター=藤田氏)
パネルディスカッションでは、鈴木氏と鬼村氏いずれも「裁量労働制の適正かつ効果的な運用には、制度の理解に向けた地道な取り組みの継続が重要」と指摘。両社とも制度の趣旨・目的や、みなし労働時間等の基本事項を明記した管理者と社員向けのガイドラインを作成しており、制度の適正な運用においてカギとなる部分(川崎重工業は「裁量労働制勤務にあたっての管理者と労働者の心構え」、トヨタ自動車は「裁量的に働ける状態とは」など)をわかりやすく記載していると紹介した。藤田氏は、制度の趣旨・目的等を繰り返し丁寧に周知している両社の取り組みは各社にとって参考になると述べた。また、両社は、職場で問題があった際、法定で定められている労使委員会だけでなく、労使の対話の場を都度設けて議論を重ねていると説明。両社の取り組みから、労使間の議論を重視し、複数チャネルを活用して問題に対処することの重要性が確認された。
最後に、両氏はあらためて裁量労働制の有用性と対象業務の拡大について述べた。コアタイムの無いフレックスタイム制を活用すれば裁量労働制は不要とする声もあるが、フレックスタイム制は(1)労働時間の長短が報酬の多寡に影響する(2)業務遂行方法等に関し労働者に裁量権を与えることが要件になっていない――点が裁量労働制とは異なると強調。さらに、経済社会の変化への対応に向けて裁量労働制の活用を促進するため、(1)裁量的にPDCAを回す業務(2)課題解決型開発提案業務――の二つを企画業務型裁量労働制の対象に追加することが重要であると訴えた。
(注)「Connected=コネクテッド(自動車のIoT化)」「Autonomous=自動運転」「Shared & Service=シェアリング・サービス」「Electric=電気自動車」の頭文字をもとにした造語。自動車業界全体における新たな技術革新
【労働法制本部】