ロシア・中国との関係が緊張感を増すなか、米国が両国に科す制裁への対応は、多くの日本企業にとって不可避の課題となっている。そこで、経団連米国事務所は9月1日、バーンズ&ソーンバーグ法律事務所のデビッド・スプーナー氏、ニコラス・A・ガルブレイス氏、前田千尋氏、飯野和実氏を招き、米国の対露・対中制裁と日本企業への影響について、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 対中制裁(1)通商法301条関税
対中制裁の大きな柱に、通商法301条に基づく関税がある。中国からの輸入を幅広く対象とする同関税は、トランプ政権が2018年に導入し、バイデン政権が引き継いだものである。同関税は、以下の三つのプロセスのいずれかを通じて修正される可能性がある。
第1に、インフレ高進を受け、議会で見直し論が高まっている。進捗は遅いものの、両院協議会で調整中の対中競争関連法案が成案を得られた場合、通商代表部(USTR)に一定の条件で適用除外を認めさせる条項が盛り込まれるだろう。
第2に、同関税は導入後4年で自動的に失効する仕組みであり、延長にはUSTRの判断が必要である。延長可否検討のプロセスはすでに進んでいる。近くUSTRの方針が示され、利害関係者に追加で意見募集すると予想される。
第3に、同関税導入時の行政手続きが違法だったとして、約6000の輸入関係業者が訴訟を提起している。米国国際貿易裁判所の一審判決は23年初頭に出るとみられている。
■ 対中制裁(2)ウイグル強制労働防止法
1930年関税法は、海外で強制労働により生産されたあらゆる物品の輸入を禁止している。税関国境保護局は綿、トマト、シリカ製品の取り扱いをはじめ、新疆ウイグル自治区が関わる製品に同法を積極的に執行してきた。
ここに加わったのが6月に施行されたウイグル強制労働防止法である。同法は、新疆ウイグル自治区が関わる生産活動を強制労働と推定し、それに由来する物品の米国への輸入を禁じている。
輸入品を差し押さえられた事業者は、二つの側面から抗弁し得る。
一つは、輸入品やその原料が新疆ウイグル自治区や米国政府が特定する強制労働関係組織と無関係に生産されたと示すことである。商品のサプライチェーン全体を把握しておくことがカギとなる。
もう一つは、当該輸入品が新疆ウイグル自治区と関係していても、強制労働には関与していないと証明することである。ただし、これは実際には難しいだろう。
■ 対露制裁~五つの注意点
対露制裁をめぐっては、次の五つのポイントを理解する必要がある。
第1に、米国の制裁は、米国との接点を通じて国外にも適用される。例えば、一定比率以上の米国産品、または米国産の技術やソフトウエアを使ってつくられたデュアルユース(軍民両用)製品は、輸出規制の対象となる。米国人や米国法人、米ドル決済といった接点がある場合も制裁の効力が及ぶ。
第2に、ほぼすべての業界が対象である。工業製品、情報機器、高級品等の対露輸出にはライセンスが必要となった。金融・防衛・エネルギー分野には業種ごとの制裁がある。ロシアへの新規投資は全面禁止とされている。
第3に、禁じられていないビジネスも、金融制裁によって困難になる。ロシアとの間では、ドル決済や主要な銀行との取引全般が禁止されている。加えて、米国の金融機関は保守的な対応を取ることが多い。
第4に、米当局は迅速かつ徹底的に規制を執行するだろう。企業は指摘・質問に備えるべきである。違反企業は二次制裁を科されることもある。悪評が立つリスクも大きい。
第5に、制裁遵守にはデュー・ディリジェンスの強化が必要である。制裁対象者が50%以上の持ち分を持つ企業、ウクライナの一部地域(クリミア等)との取引は、新たに注意すべき点である。輸送の過程でロシアを経由する、ロシア発だが第三国で積み替えられるといった貨物の流れにも注意が必要である。
こうした注意点にあらかじめ備えることが、最終的には損失を抑えることにつながるだろう。
【米国事務所】