経団連のヨーロッパ地域委員会(東原敏昭委員長、佐藤義雄委員長)は7月1日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。外務省の小野啓一経済局長ならびに経済産業省の松尾剛彦通商政策局長から、最近の欧州情勢および日EU関係の見通しについて説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 外務省・小野氏
日EUは普遍的価値を共有しており、2023年のG7広島サミットも見据え、連携を一層強化していくことが重要である。例えば、中国について、かつてEUは対中武器輸出を含め中国との協力に比較的前向きだったが、人権問題などをめぐり、認識に一定の変化がみられる。20年末に大筋合意した中国EU包括的投資協定(CAI)の批准手続きも凍結している。また、欧州委員会は、経済的な威圧を行う国に対し、関税の引き上げや政府調達からの排除、輸出制限などの対抗措置の発動を可能とする規則を提案している。どのような行為を対象とするのか、日本を含む同志国とどのように連携を図るのか、今後の経済外交を考えるうえで大きなテーマの一つとなり得る。
気候変動については、今般のG7エルマウ・サミットで、22年中に「気候クラブ」を立ち上げることが標榜された。G7諸国以外の新興国・途上国も巻き込み、気候変動対策における規制標準化の枠組みを構築することで一致したが、具体的な制度設計は先送りされた。気候変動は、23年のG7広島サミットに向け、引き続き主要な議題となる。日本としても、EUが進める気候変動分野などのルールメーキングにおいて、欧州に劣後しないよう、説得力ある大きなナラティブをつくるなど、対応が必要である。
■ 経産省・松尾氏
従前のEUの優先課題であるグリーンやデジタル、人権といった政策は、ロシアによるウクライナ侵略以降も変わらず進められる。欧州の一部の国では、一時的に石炭火力発電の稼働を増やすなど緊急措置を実施しているが、EU全体としては、炭素国境調整措置(CBAM)など、脱炭素化に向けた取り組みは従来と変わらない。一方で、欧州のなかでも輸出主導型の国は、WTOルールとの整合性確保の観点から、微妙な立場に置かれている。また、21年10月末に米EU間で合意された鉄鋼・アルミニウムに関するグローバルアレンジメントは、生産一単位当たりの炭素含有量を規制すること、ならびに非市場的な過剰生産に対処することを目的としている。欧米と緊密に連携しつつ、わが国に不利なルールが先行して策定されないように注視する必要がある。
デジタルについては、22年5月の日EU定期首脳協議において「日EUデジタル・パートナーシップ」が立ち上げられ、信頼性のある自由なデータ流通、半導体のサプライチェーン、5Gといった分野で協力を進めていく。欧州では、個人情報保護に加えて、非個人データを公共財として活用するデータ規則案の策定を進めている。また、GAIA-X・Catena-Xなど、官民が一体となってデータを共有・連携する取り組みが始まっている。日本もサプライチェーン上のデータ共有の観点から、具体的な枠組みを官民一体となって議論していく必要がある。
また、グリーンと同様に、「共通価値」の実現のための取り組みを域外にも求める動きとして、EUレベルでの人権デュー・ディリジェンス(DD)の義務化がある。今後、サプライチェーン上の企業を含む域外企業に対しても、強制労働などの人権侵害に対処するため、企業のDD実施が義務化される予定である。企業への過度な負担とならず、予見可能性が確保された内容となるよう日EUで協働していかなければならない。
【国際経済本部】