経団連は7月19日、「宇宙基本計画の実行に向けた提言~令和5年度宇宙関係予算で担保すべき重点事項」を公表した。概要は次のとおり。
■ 宇宙政策の重要事項
1.宇宙安全保障の確保
ロシアによるウクライナ侵略において、戦闘状況の把握に民間の衛星画像が活用されるなど、宇宙の安全保障利用が顕在化している。わが国の宇宙安全保障の確保に向けて、次の六つの施策を要望する。
① 宇宙状況把握(SSA)能力の強化
宇宙空間の情報をレーダなどで収集するSSAシステムの運用を23年度に開始し、SSA衛星を早期に打ち上げるべきである。② 早期警戒機能の整備
早期警戒機能を保有する小型衛星コンステレーションの構築が急務である。③ 準天頂衛星システムの開発と整備
持続測位が可能な準天頂衛星の7機体制を23年度に確実に構築すべきである。
この他、④宇宙システムの抗たん性(宇宙システムを継続的かつ安定的に利用できる能力)の確保 ⑤情報収集・警戒監視・偵察能力の向上 ⑥海洋状況把握能力の強化――が必要である。
2.災害対策の強化および地球規模課題の解決
宇宙システムにより台風や地震などの被災状況の迅速な把握が可能になる。衛星の活用により、2050年カーボンニュートラルの実現への貢献も期待される。次の二つの施策を要望する。
① 災害対策の強化
陸域観測技術衛星「だいち」シリーズの整備による基幹インフラ化などが必要である。② 地球規模課題の解決
温室効果ガス観測・水循環技術衛星の打ち上げや、宇宙太陽光発電システムの開発が必要である。
3.宇宙科学・探査による新たな知の創造
宇宙空間における人類の活動領域を拡大するため、次の三つの施策を要望する。
① 「アルテミス計画」への貢献
米国が進めている月面探査を行う「アルテミス計画」への参画にあたり、補給機の開発・実証と継続的な運用を早期に実現すべきである。② ポストISSに対する方針の明確化
30年以降の地球低軌道活動(ポストISS)について、産業競争力強化の観点で政府の方針を早期に明確化すべきである。③ 有人宇宙技術の研究開発
有人輸送および有人滞在技術の研究開発を推進すべきである。
4.イノベーションの創出
世界的に宇宙産業の規模が拡大しており、欧米を中心に民間企業による宇宙活動が活発化している。イノベーションの創出に向けて次の三つの施策を要望する。
① 宇宙産業とスタートアップや異業種との連携
宇宙産業とスタートアップが連携して技術開発する仕組みの整備が必要である。② 衛星データ利用の促進
政府の衛星データについて、オープン&フリー化を促進すべきである。③ 衛星技術の開発
政府と企業が参加した「衛星開発・実証プラットフォーム」のもと、革新的基盤技術を開発すべきである。
5.宇宙産業基盤の強化
① 宇宙輸送システムの開発・運用
H3ロケットおよびイプシロンロケットの開発と運用を進めるため、政府が長期的かつ安定的に調達を行う「アンカーテナンシー」を推進すべきである。② 契約制度の改善
宇宙産業が事業の継続に必要な基盤を強化するため、企業が適正な利益を確保できる契約制度に改善すべきである。③ サプライチェーンの強化
宇宙事業の重要部品について、政府による調達保証が必要である。
■ 宇宙関係予算の確保
令和5年度の政府宇宙関係予算の概算要求額は、年間5000億円を大きく超えるように増額すべきである。政府全体としての宇宙安全保障関連の予算の拡大も必要である。
【産業技術本部】