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青木氏
経団連は6月7日、宇宙開発利用推進委員会の企画部会(原芳久部会長)と宇宙利用部会(山品正勝部会長)の合同会合をオンラインで開催した。慶應義塾大学大学院法務研究科の青木節子教授から、ポストウクライナの宇宙秩序とわが国の安全保障について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 世界の宇宙利用の動向
世界全体で運用中の衛星が増えており、2021年12月末時点で4852機の衛星が運用されている。近年、米国は、メガコンステレーション(巨大な衛星網)の構築により衛星数が急増している。中国の衛星数も大幅に増える一方、ロシアの衛星数の伸び幅は小さい。
各国の宇宙能力を示す重要な指標が、ロケットの打ち上げ回数である。18年から21年まで、中国の打ち上げ回数は世界で最多であった。ただし、自国のロケットを海外の射場で自国の企業が打ち上げる場合など多様な打ち上げ形態があるため、一概に各国の打ち上げ数の比較はできない。
■ 米中露の宇宙政策
米国の宇宙政策の特色は、歴代政権が一貫して宇宙の支配を手放さないことである。国防総省の宇宙関係予算は、常にNASA(米国航空宇宙局)の予算より多く、莫大な予算を投入して民間の宇宙産業を育成している。トランプ政権が決定した有人月探査などの宇宙政策は、バイデン政権に引き継がれている。
中国の宇宙政策では、強い民生や宇宙科学が強大な軍事力を生むことを前提に、宇宙のすべてにおいてトップを目指している。00年以降に5回発行した「宇宙白書」では5カ年計画を立てており、ほぼすべての目標を予定された時期に達成した。
ロシアの宇宙政策では、包括的な戦略を策定していない。10年代にロケット打ち上げの失敗が相次ぎ、長期的には低落の兆候がある。月探査活動でロシアは中国と協力しており、米国が主導する「アルテミス計画」に対抗している。
■ ポストウクライナの宇宙覇権争い
ロシアのウクライナ侵略においては、米国など各国の民間企業がウクライナを支援している。米国のスペースXが、ウクライナに衛星コンステレーションの端末機を5000個以上提供して、通信状況が大幅に改善された。
現在、ロシアは各国との宇宙協力を停止している。例えば、ESA(欧州宇宙機関)の衛星打ち上げを中止した。ロシアの国営宇宙開発企業ロスコスモスは、NASAと米国企業へのロケットエンジンの販売を中止した。
わが国としては、ウクライナ侵略の教訓から、防衛力強化のために宇宙能力を高めて民間サービスを活用すべきである。ミサイル防衛用の小型衛星コンステレーションを構築し、宇宙システムのサイバーセキュリティ対策を強化する必要がある。
■ 宇宙覇権争いの行方
50年までに地球から月までの経済圏が構築されると予想されるなかで、米国や中国により宇宙覇権が争われる。米国など民主主義国が民間活力を活用する一方、中国は軍事技術と民間技術を融合させる「軍民融合」を推進する。
米国はわが国や欧州諸国と連携し、中国はロシアやAPSCO(アジア太平洋宇宙協力機構)の加盟国と連携する。わが国は米国の最も信頼できる同盟国として、宇宙の発展による国益の最大化を目指すべきである。
【産業技術本部】