経団連は5月30日、金融・資本市場委員会(太田純委員長、日比野隆司委員長、林田英治委員長)をリアルで開催した。約80名が参加し、政府の「新しい資本主義実現会議」の構成員である渋澤健シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役から、「『新しい資本主義』の実現に向けた企業価値の可視化」について説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
■ 新しい資本主義と渋沢栄一
岸田文雄内閣総理大臣のリーダーシップのもと、政府に「新しい資本主義実現会議」が設立され、まもなく取りまとめが行われる。「新しい資本主義」について、成長と分配の好循環をつくり出すという側面は報道されている。しかし残念なことに、今までの資本主義の課題、外部不経済を是正し、人的資本の向上などを通じて、包摂性のある社会を資本主義経済のシステムのなかで実現するという、その本質には焦点が当てられていない。欧米でも、「ステークホルダー資本主義」が経済界の意識の中心に位置付けられるようになった。
日本資本主義の父といわれる渋沢栄一は、「合本主義」(さまざまな資本を合わせて新しい価値をつくる)という言葉を用い、その実現に取り組んだ。例えば、渋沢は当時のスタートアップである第一国立銀行の設立者だが、「さまざまな人が保有する資本は一滴の雫のようなものだが、これを合わせるとやがては大河になる。豊かな未来をつくるために雫を合わせて、今日より良い明日の糧を社会の隅々まで行きわたらせることが重要」と考えていた。また渋沢は約500社の設立に関わったが、いずれも多様なステークホルダーとの協働によって成し得たのである。まさにステークホルダー資本主義こそが日本の資本主義の原点であった。
■ 「インパクト」こそが新しい資本主義実現のカギ
こうしたサステナビリティやステークホルダーを重視する新しい資本主義においては、従来では可視化できなかった企業価値に着目し、それを可視化し、社会変革につなげていくことが重要となる。
そのカギとして、「インパクト」という観点が重要になる。インパクトとは「経済的・社会的な課題の解決を意図としながらも経済的リターンを要す」という考え方であり、それに着目したいわゆるインパクト投資は、ポストESG(環境・社会・ガバナンス)の投資手法として注目されている。
とりわけインパクトを測定・目標設定する利点は、企業の存在意義、すなわち「事業を通じた社会課題の解決による価値創造」と、経済的リターンとの結び付きの可視化につながることである。インパクトの測定が、新しい資本主義における企業の新しい価値の可視化に寄与することを期待したい。
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講演後、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画(案)」や、投資家の目線からみた企業の変化について意見交換した。
会合ではその他、報告書案「“インパクト指標”を活用し、パーパス起点の対話を促進する~企業と投資家によるサステイナブルな資本主義の実践」を審議し、了承した(別掲記事参照)。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】