経団連(十倉雅和会長)は6月14日、報告書「“インパクト指標”を活用し、パーパス起点の対話を促進する」を公表した。近年、インパクト投資などで注目が高まる「インパクト指標」に着目しつつ、その意義や実践例について取りまとめた。概要は次のとおり。
■ 「サステイナブルな資本主義」を金融・資本市場で実践する
経団連は、これまでの報告書や提言において、サステイナブルな資本主義の実践に向けて、社会課題を解決する事業やイノベーションへの投資促進、またそうした流れが実現するための企業と投資家によるパーパスを起点とした対話の重要性を主張してきた。
■ 従来のESG投資のKPIは、長期経営戦略との関係性が説明しがたい
他方、依然として、サステナビリティに関する対話において企業と投資家との間でギャップがある。その理由として、「従来のESG投資(環境・社会・ガバナンス対応を踏まえた投資)のKPI」(例=「職場の労災事故率」「社外取締役比率」など)が抱える課題が挙げられる。
企業側は、サステナビリティと長期経営戦略は一体と認識し、サステナビリティに関する対話のなかで、長期経営戦略の質の向上を図る対話を期待し、投資家はそれに資するKPIの設定に関心がある。
しかし、従来のESG投資のKPIが長期経営戦略にひも付くとは必ずしもいいがたく、双方が期待する望ましい対話が実現できていない。つまり、パーパスや長期経営戦略とひも付く、新たなKPIを提示することが重要となっている。
■ パーパスや長期経営戦略に関する対話のツールとなる「インパクト指標」
そこで、今回の報告書では、新たなKPIの方向性として「インパクト指標」に着目した。
インパクト指標とは、「事業や活動の結果として生じた社会的・環境的な変化や効果を示す指標」である。例えば、「健康寿命」や「医療アクセス」、「災害被害」や「交通渋滞」など、従来のKPIよりも社会に直接ひも付いた指標といえる。
そうした性質を有するインパクト指標を活用することによって、企業はパーパスをより具体化して、自社のビジネスモデルが直接貢献できる指標にまで落とし込み、パーパスとビジネスモデルの関係性を一貫して説明できるようになる。例えば、創薬事業を持つ企業が、インパクト指標を活用することで、「すべての人を健康に」というパーパスを「健康寿命」、さらにはそれを具体化した「疾病罹患者数」などの指標へと落とし込むことで、自社の取り組みをより明確に説明できるようになる。これは従来のESG投資のKPIでは実現できなかったことである。
■ ステークホルダーとの共通言語としての「インパクト指標」
さらに、インパクト指標は、企業価値に重要な影響を与える社会課題は何か(マテリアリティは何か)、自社の事業やイノベーションが、高まるサステナビリティの市場機会の獲得に向けてどの程度の競争力を有するか、またどの程度の成果をもたらしたか、などを定量的に示すことができる(図表参照)。
そのため投資家のみならず、多様なステークホルダーにとっても、インパクト指標で示された事業やイノベーションの意義、実効性を容易に理解することができ、いわば共通言語として活用できる。
■ 実践上の課題、「レジリエンス」「ヘルスケア」指標例を提示
報告書では、その他、各社の実践例を紹介しながら、実践上の課題を整理している。さらに分野横断的な横断指標(16指標)と、会員企業の関心が最も高いレジリエンス分野(34指標)、ヘルスケア分野(34指標)の合計84の指標を整理して、「経団連インパクト指標例」として示している。
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「インパクト」は、岸田文雄内閣総理大臣がその重要性を強調するとともに、政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」にも盛り込まれるなど、今後、国内外でさまざまな動きが出てくると見込まれる。経団連は、同報告書を活用しつつ、「成長に資するインパクト」の観点から、取り組みを進めていく。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】