経団連のアメリカ委員会連携強化部会(吉川英一部会長)は5月19日、トランプ政権で駐日大使に指名されていた、ブランズウィック・グループシニア・アドバイザーでハドソン研究所特別招聘研究員(前所長兼CEO)のケネス・ワインスタイン氏の来日の機会をとらえ、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。同会合には、日米協会会長で中曽根平和研究所理事長の藤崎一郎元駐米日本大使も出席した。米国の直面する課題と日本の役割について、ワインスタイン氏の説明の概要は次のとおり。
米国は今、深刻な政治的機能不全に陥っている。これは、国内の分断やロシアのウクライナ侵略といった外交問題等に由来するものである。国内では、西海岸のエリートと農村地域の有権者との間の文化的な分断が、党派間の分断に直結している。バイデン氏は、ブルーカラーを代表する冷静な中道派として大統領に就任したものの、実際には、トランプ大統領時代に広がった党派間の分断を克服できずにいる。
また、外交面では、アフガンからの米軍撤退が、ロシアに対し「ウクライナ侵略にも米国は介入しない」とのメッセージを発する結果となった。侵攻開始後、バイデン大統領は、ロシアとの対話という外交的手段で解決を試みたものの失敗し、結局は世論に後押しされるかたちで、ウクライナへ武器を供与することとなった。
こうした難しい課題に加え、新型コロナウイルスの感染抑止に失敗し、政権の目玉政策である米国再建のための「Build Back Better法案」も頓挫した。さらには、エネルギー価格の高騰も相まって、米国内の不満は高まっている。
このような困難な状況にあって、日本は、米国の信頼できる同盟国から、仲間(peer)にステップアップする必要がある。特に、安全保障に関して、次なる主戦場はアジアであり、台湾有事への懸念はこれまで以上に高まっている。ウクライナ侵略を念頭に、日本は、防衛面のみならずサプライチェーンの強靱化においても、米国との連携を強化する必要がある。このために重要な概念が、当時の安倍政権が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)である。米国は、日本の働きかけもあって、同地域へ関与することの戦略的重要性を認識し、2021年10月には、「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を提唱した。一方で、IPEFは関税障壁の撤廃を含まないため、他国、特に東南アジア諸国の参加を得られるかについて懐疑的な見方もある。日本がリーダーシップを発揮して、米国に対し引き続き環太平洋パートナーシップ(TPP)への復帰を促すことが重要である。
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藤崎大使は、ワインスタイン氏に対し、IPEFについての米国内の受け止め方などについて質問しつつ、次のとおりコメントした。
日本の首相、外相の外遊の合間を縫って、各国の要人がこぞって来日し、日本がQUAD(日米豪印)首脳会合を主催するなど、日本外交はこれまでになく世界的に高い注目を集めている。これは日米同盟やG7重視などこれまでの路線が正しかったことを証明している。
ロシアのウクライナ侵略は緒戦では失敗であり、長期的な同国の信用も失墜した。しかし問題はここ1、2カ月である。もしプーチン大統領がここで「撃ち方やめ」と言ったら、どうするのか。市民や難民のことも考えなければならないゼレンスキー大統領は、占領地域回復まで戦争を続けると言えるか、エネルギーのロシア依存度の高いヨーロッパ諸国がどこまで戦争継続を支持できるかなど、「頭の体操」をしておかなければならない。日本の安全保障に関しては台湾有事のみならず、無人の尖閣諸島への空からの侵攻にも備えることが重要である。
【国際経済本部】