経団連は5月17日、消費者政策委員会企画部会(楯美和子部会長)をオンラインで開催した。東京理科大学大学院経営学研究科の日戸浩之教授から、近年の消費者行動の変化と、それを踏まえたサステイナブルな商品・サービスの拡大に向けた企業によるアプローチの仕方について、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 消費者意識・行動の変化
近年の消費市場においては、シェアリング、サブスクリプションなどの「所有から使用へ」という新たな価値提供の形態や、中古品等の2次マーケット拡大が進展している。野村総合研究所が実施する「生活者1万人アンケート調査」によると、1980年代は年齢が高い人ほどレンタルではなく「所有したい」との意識が高い傾向にあったが、2010年代に入ると年齢が高い人でも「所有したい」とする割合は低くなってきている。
環境意識・行動に関しては、地球環境への不安はあるものの、実際には環境配慮に向けた行動につながっていない傾向が強い。地球温暖化や大気汚染等への不安は過去から一定程度存在しており、不安を感じている生活者の割合は1997年でも2018年でも2割程度と変化はみられない。17年に環境省が実施した調査でも、物・サービスの購入時に環境への影響を考慮する人の割合は、36.4%にとどまる。
行動につながらない背景には、当事者意識の低さがあるといえる。前述の環境省の調査において「地球レベルでは環境が悪化している」と実感するとの回答が77%を占める一方、地域レベルの環境に関しては29%にとどまる。また、行動に移しにくい国民性もあり、各国と比較して、環境保護団体への寄付経験やデモ参加等の割合が低い。
こうしたわが国の消費者に行動変容を促すには、地球環境問題に対する当事者意識を底上げしていく必要があり、なかでも環境先進層として若年層のZ世代(主に1996~2012年生まれ)が注目される。確かにZ世代は、各種調査によると倫理、環境への意識が高く、企業のパーパス(志)にも厳しい目を向けている。他方で、デジタルリテラシーを活用して安くブランドの製品やサービスを購入したいとの意識もあり、必ずしも単純に倫理、環境に配慮した商品等に対価を支払うわけではない。
■ 企業によるアプローチの方向性
このような消費者、Z世代の特徴も踏まえ、意識・行動変革へのドライバーとして以下の三つのアプローチを提案したい。
第1は制度改革である。多様な選択肢に消費者が容易にアクセスできる仕組みは、行動変容を大きく促す結果につながり得る。
第2は技術革新である。消費者、事業者が簡便に利用できるシステムの導入などによって、環境、社会等に配慮した商品、サービスの提供・普及が容易になる。
第3は情報共有と学習である。適切な情報提供や教育の継続により、消費者側の理解が深まり定着することで、実践に移す可能性が高まる。
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説明後、社会、環境に配慮した商品、サービスの価格設定にいかに消費者の理解を得るかとの質問に対して、日戸氏は、価格に見合う価値について、納得感のある説明が不可欠と応えた。
【ソーシャル・コミュニケーション本部】