ドイツが独自のサーキュラーエコノミー(CE)規格の策定を行うと発表したのとほぼ同時に、「CEに向けたロードマップ」(※1)が公表された。このロードマップで示された戦略は、概ねIndustry 4.0(デジタル化)をベースに描かれている。本稿では、同ロードマップから筆者が読み取った主要なエッセンスをベースに、CEとデジタルの統合化戦略の考え方と留意点を示す。
CEでは製品が廃棄物になった後の資源循環となるリサイクルよりも、製品を長期間使い続けるビジネスモデルの実施が重視される。リース、レンタル、シェア、サブスクリプションなど、製品の機能・価値を提供するビジネスの方が売り切り型ビジネスよりも、製品のライフサイクルを長期にわたって管理しやすくなるため、CEを実現できると考えられている。
このようなビジネスへの転換には、これまでもデジタル技術が有用であると指摘されてきた。しかしながら、CEは、資源効率性や製品寿命を向上させることを目的とした活動であり、それに有効な手法はデジタル技術に限られない。このため、両者を特段関連付けて論じることは少なかった。
ところが同ロードマップは、産業のデジタル化を目指すIndustry 4.0と統合する方向で、CEを推し進めることをかなり明確に打ち出した。具体的には、デジタルとCEを統合させるプロセスについて、概ね次の3ステップが示されている。
- (1)売り切りビジネスを機能提供型のデジタルビジネスモデルへと転換させる
- (2)デジタルビジネスを成功させる
- (3)転換がうまくいったらCEを融合させる
このような考えは、合理的と思える。なぜなら、リース、シェアなどのビジネスであっても、モノの循環を目的に始めるわけではないからだ。
これまでは、デジタル技術をベースに、例えば、シェア型のビジネスが開発されると、それをもって「CE型ビジネス」と認識してきたのが実態である。しかし、このようなビジネスが、製品を売り切る従来型ビジネスと比べて資源効率が向上するとは限らないことがわかってきた。
この事実は、東京大学の村上進亮准教授らのグループが発表した研究結果(※2)において示されている。同結果では、それらのビジネスに転換しても脱炭素面で逆効果となるケースが起こることについて言及しているのである。
このようなことも踏まえてか、ドイツのCEロードマップは「ビジネスモデルのデジタル化」と「CE」とを基本的に区別して扱っている。つまり、デジタル化して資源効率での逆効果が認められる場合には、それを解決してなお、より好ましい効果を増幅させる役割をCEに求めている。また、そのような機能を担うツールを「CEレバー」と呼んでいる。
CEレバーとは、製品を廃棄物に至らしめない「修理、再製造、リファービッシュ、リユース」を行い、ビジネスで使う製品に対し製品価値の再生を行い、さらにCEレバーの効果がよりよく発現できる製品へと設計変更するなど、CE目的に絡むさまざまな取り組みを包含する概念として定義される。このCEレバーによって、ドイツにおける削減できるCO2排出量は、2030年において18年と比べ約3.8億トンに及ぶと推計している。
以上のとおり、ドイツは、経済と環境を融合させたビジネスが、国内外の市場において将来性が高く、高度な能力を有するドイツの製造業を維持するために必要な戦略と位置付けている。
このようなドイツの動きを参考にしつつ、日本もしかるべきデジタル×CEの戦略を練り上げ、実行に移していく必要があるのではないだろうか。
(※1)ドイツ連邦教育研究省「Circular Economy Roadmap for Germany」
https://www.circular-economy-initiative.de/publikationen
(※2)国立環境研究所プレスリリース「サーキュラーエコノミーを脱炭素化につなげるための必須条件を解明」
https://www.nies.go.jp/whatsnew/20211215/20211215.html
【21世紀政策研究所】