21世紀政策研究所(十倉雅和会長)の「中国情勢に関する研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学教授)」は12月2日、会員企業から200人の参加を得て、オンラインセミナーを開催した。中国の統治強化がビジネスに及ぼす影響をテーマに、「中国法の予見可能性」「政府と企業の関係」「香港の現状」の3つの視点から、対中ビジネスで留意すべき課題を分析、検討した。概要は次のとおり。
■ Rule of Lawと依法治国のあいだ
(石塚迅 山梨大学准教授)
中国は市場経済化に適応するため、すでに私法(民商法)の整備を進めており、法の予見可能性はかつてないほどに高まった。一方、公法(行政法)については、しばしば公権力の恣意的な介入が指摘されており、法の予見可能性はなお不透明なままである。中国が目指す社会主義市場経済における法治は、「党と政府の分離(党政分離)」という建前のもと微妙なバランスで成立していた。習近平政権は、この党政分離を放棄し中国共産党の指導を極限にまで強化する方針をとっている。そのため、市場経済にとって不可欠な法の安定性、予見可能性は今後減損されていくものと予想される。
■ 政府―市場関係の再構築に向けた法制度改革の現段階
(小嶋華津子 慶應義塾大学教授)
習近平政権は、法治の目的として「規律ある市場の構築」を掲げ、政府と市場、政府と社会との関係の明確化、経済活動への不当な干渉の抑制、行政の違法行為の是正などを通じて、法律に基づいたビジネス環境の構築に取り組んでいる。また、問題視されてきた政府と業界団体・商会との癒着や汚職について、両者の「脱鈎(だっこう)」(分離)を進める一方で、業界団体・商会内において、共産党による幹部人事への介入など統一戦線工作の強化が推進されつつある。
■ 香港情勢と米国、世界の対応
(倉田徹 立教大学教授)
香港をめぐって激しい対立に陥った米中関係だが、両国とも香港経済を壊す行為は慎重に避けており、現時点では香港経済全体への大きな悪影響はみられない。 現在、香港では司法・政治などのシステムを中国のやり方に変容させる「中国式化」と称すべき変化が起きている。これにより世界も香港を「中国の一部」として扱う傾向にある。これが香港にもたらす中長期的なリスクとして、移民の流出に伴う頭脳流失、外資の撤退、香港在留外国人の安全の外交問題化が考えられる。
続くパネルディスカッションでは、川島研究主幹をモデレーターとして、講演者3名がパネリストとして登壇。川島氏は、1990年代前半にできた概念「社会主義市場経済」の枠組みとバランスが、習近平政権において変更され、経済をめぐる制度等に影響を及ぼしていると指摘。共産党、政府、市場、企業、憲法、それぞれの関係性、役割について、パネリストとの間でさらに議論を深めた。
参加者からは、金融都市香港の今後、企業の香港から中国大陸への移転に関する質問が寄せられた。これに対して倉田氏は、「中国企業がIPOの場として香港市場を選択するなど、香港は米ドル獲得の場として盛り上がっている。ただし、これ以外の業種に関しては、一国二制度の特殊性が失われた香港にとどまる理由を見いだしにくい。むしろコストも安くストレートにビジネスが進む大陸への移転を選択する可能性もある」と指摘した。
【21世紀政策研究所】