21世紀政策研究所(十倉雅和会長)は、英国グラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)閉幕直後の11月26日、会員企業400名余りの出席を得てオンラインセミナー「COP26を含む地球温暖化をめぐる国際情勢と日本の課題」を開催した。COP26を現地取材した有馬純研究主幹(東京大学公共政策大学院特任教授)が、気候変動対策をめぐる国際情勢とCOP26の模様を報告したうえで、今次会合の決定事項を分析し、懸念点と日本が今後取るべき戦略を提示した。概要は次のとおり。
■ COP26を取り巻く情勢
G7、COP26の議長国英国は、G7で野心的な方向性の発出に成功し、COP26でも同レベルの協定を採択すべくG20議長国イタリアと連携した。しかし、G20では、中国、ロシア、インド、インドネシアがパリ協定よりも厳しい内容は再交渉とすべきとして抵抗したため、石炭火力の対外投資停止を除き、G7より後退した声明を採択するにとどまった。COP26でも中国をはじめとするこれら諸国の動向が注目された。
風力を中心とする変動性再生可能エネルギーの導入拡大を図っている欧州では、風況の悪化で天然ガスと電力価格が急騰していた。しかし、ドイツ人参加者に取材したところ、野心的な気候変動対策に対する世論の離反はなく、「より早く再エネを導入すべきであった」という論調が優勢であった。欧州におけるこの趨勢は今後も変わらないと思われる。
■ COP26の結果
世界リーダーズサミットでの首脳級スピーチにおいて、インドなどが新たにカーボンニュートラルを表明したが、いずれも政治的ステートメントに近いものがほとんどで、実効性には疑問符が付く。
また、排出量の多い産業の技術目標を定めたグラスゴー・ブレークスルー、メタン排出量の削減を定めたグローバル・メタン・プレッジなど、有志連合による宣言も多くなされた。しかし、これらも気候変動対策の実効性を高めるというより、最終的な成果文書であるグラスゴー気候協定の内容に影響を与える意図で発出された側面が強い。
結果として、パリ協定の1.5℃~2℃目標で最も厳しい1.5℃を目指して努力するとの道筋が設定され、石炭という特定のエネルギー源のフェーズダウンに初めて言及されることとなった。さらにこれらの措置によって発生するロス&ダメージを回避・最小化するための資金支援など、途上国に大きく配慮する内容も盛り込まれた。
■ COP26の評価と日本の課題
COP26では、パリ協定の6条メカニズム(削減量の算定方法等)が決着したうえ、総じてG20の声明以上の内容での合意が達成されたことから、有意義であったというのが一般の評価だろう。しかし、6条メカニズムの交渉終了により、今後、COPは交渉の場から野心レベルの引き上げを競う「美人コンテスト」と途上国が支援拡大を求める「大衆団交」の場となる可能性がある。そのため、地球全体の温度目標達成と各国の可能な目標設定とをバランスさせるという、パリ協定の趣旨が変質すると懸念される。「勝負の10年間」に、目標引き上げ圧力、途上国による先進国への資金援助要求など、大言壮語のツケが対立激化のかたちで回ってくるだろう。
こうしたなか、日本はエネルギーコストを明確にして絶えず国際比較を行い、経済界が他国に対し不均衡な高コストを負わないメカニズムを構築していく必要がある。海外との電力連系線のない日本はあらゆる脱炭素化の技術オプションを活用すべきである。排出量削減目標を引き上げた今こそ、原子力の長期活用を議論する機会である。削減目標とエネルギーミックスとの非現実的なひも付けはやめ、再エネ、蓄電池、水素、アンモニア、CCUS(CO2を回収、利用し、貯留する技術)などの技術開発・コスト目標のロードマップこそひも付けるべきである。
【21世紀政策研究所】