経団連は9月14日、提言「第12回WTO閣僚会議に期待する」を公表した。4年ぶりのWTO閣僚会議(MC12)を11月末に控えた今、多角的自由貿易体制の維持・強化を求めるもの。概要は次のとおり。
世界では、新型コロナウイルスが経済に暗い影を落とし、格差の拡大や世界の分断が懸念される。他方、カーボンニュートラルの実現など、持続可能な開発に向け、国際社会が一体となって取り組むことが課題となっている。こうしたなか、必要なものが必要とされるところに速やかに供給される世界を実現すべく、ヒト、モノ、カネ、サービス、データ等の国境を越えた自由な移動を制度的に確保することが不可欠となっている。
しかし、その役割を担うべきWTOは、設立から四半世紀以上を経て、機能が著しく低下している。ルールに基づく自由で開かれた国際経済秩序の再構築に向け、MC12では、次の点に関し、目に見える成果を挙げること、少なくとも今後に期待を持たせる進捗をみることが不可欠である。
■ ルールの策定・現代化
第一は、地球規模課題への対処である。新型コロナの感染拡大を防止するため、医療用品の過度な輸出制限を防止するルールを策定すべきである。また、ワクチンの普及に向け、知的財産の側面のみならず、サプライチェーンの整備を含め包括的に検討する必要がある。
気候変動問題については、環境物品の関税削減を通じた普及を促進すること、EUが導入を予定している「炭素国境調整措置」(温室効果ガスの排出削減対策が緩やかな国から、特定品目を輸入する際、証書の購入を義務付ける措置)について、WTOにおいても協定の整合性など制度設計のあり方を十分検討することが求められる。
第二は、市場歪曲的措置への対処である。日米欧三極貿易大臣会合での議論をベースに、市場歪曲的な産業補助金、強制技術移転等の規律を強化する必要がある。
第三は、デジタル化への対処である。有志国間で議論している電子商取引に関する規律について、高いレベルで合意すべきである。
■ 途上国地位の見直し
経済発展を遂げた国が、途上国としての地位を維持し、本来負うべき義務を果たしていない現状を見直し、真の途上国との間の公正な競争条件を確保する必要がある。
■ 紛争解決機能の回復
紛争解決メカニズムについては、2019年12月以降、第二審に該当する上級委員会の機能が停止している。これをできる限り早期に回復すべきである。
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経団連の通商政策委員会(中村邦晴委員長、早川茂委員長)は9月8日、オコンジョ=イウェアラWTO事務局長=写真左上=と懇談し、同提言の内容を直接説明した。同氏からは、「経団連と問題意識を共有する。貿易を通じた地球規模課題の解決や、途上国の包摂に向け、作業計画を策定して取り組む」との前向きな返答があった。
経団連は、今後ともあらゆる機会をとらえて、提言の実現を働きかけていく。
【国際経済本部】