経団連は7月29日、経済財政委員会統計部会(伊藤敦子部会長)をオンラインで開催し、三菱総合研究所の勝本卓主任研究員から、公的統計における行政記録情報活用の現状と課題について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 行政記録情報活用の現状
公的統計は、「証拠に基づく政策立案(EBPM)」を支える基礎であり、概ね5年に一度改定される「公的統計の整備に関する基本的な計画(基本計画)」に基づいて運営されている。
行政記録情報の活用は、統計調査環境の変化への対処や統計精度の維持・向上、報告者の負担軽減や統計作成の簡素・効率化にとって極めて有効であり、第Ⅰ期基本計画から検討が進められてきた。現行の第Ⅲ期基本計画では、2020~22年度で行政記録等を集中的に洗い出し、5年以内に可能な限り活用を実装すること等が掲げられている。
わが国では、母集団情報を整備するために商業・法人登記や雇用保険情報等の活用が実現したが、いまだ行政記録情報の多くが各産業における業の許認可情報の活用にとどまっている。
■ 海外での先進事例
米国では、母集団情報の整備に、雇用保険情報だけではなく、源泉徴収や所得税等の税務情報が活用されている。経済センサスでは、小規模企業について税務情報を活用することで調査事項を代替している。また、英国では、企業の特性の把握やビジネスレジスターの整備に付加価値税情報を活用している。
しかし、行政記録情報は必ずしも法人単位や事業所単位で統一された情報とはなっていないため、米国では企業組織構造を把握する統計調査を別途実施している。英国は統計調査ではなく、行政記録情報の対応関係を明らかにする作業(プロファイリング)等を実施している。
■ 行政記録情報を活用するうえでの諸課題と解決策
わが国で行政記録情報の活用が期待される統計調査として、海外に先進事例のある経済センサスや、土地の所有・利用状況を把握する土地基本調査等が挙げられる。税務情報や不動産登記情報を活用し、調査事項の代替や統計精度の向上等が期待できる。
一方、行政記録情報の活用にも限界はある。例えば、税務情報は、守秘義務による提供上の制約がある。さらに、法人番号はあるものの、個人企業や事業所が利用できる連携用符号(ID)が存在しないため、行政記録情報と統計調査の対応関係を明らかにしにくい。
こうした活用上の限界に対し、課題解決の方向性がいくつか挙げられる。まず、報告者が同意すれば、企業会計ソフト等とのAPI連携を行い、行政記録情報を調査票への記入に代える仕組みを構築することが考えられる。
また、今年9月に創設予定のデジタル庁を中心に、社会の基幹となるデータベースであるベース・レジストリが整備される。ベース・レジストリと連携して、連携用符号(ID)の整備や税務情報の活用等を進めていくべきである。
【経済政策本部】