経団連と数学界は、産業界の数理活用という新しいかたちの産学連携を模索する枠組みとして「数理活用産学連携イニシアティブ」を立ち上げ、7月16日、第1回会合をオンラインで開催した。概要は次のとおり。
■ 開会あいさつ「数理を活用した社会課題解決への期待」
江村克己 イノベーション委員会企画部会長
Society 5.0の実現には、データを活用し全体最適なシステムの構築を進めることが必要である。その際、事象をメタ化・定式化することが可能な数理科学の知見・能力活用が有効となる。数理科学を実課題の解決に活用するためには、数理科学界と産業界の距離を縮めることが不可欠であり、数理科学界、産業界それぞれが意識改革し、実課題の現場で共同して取り組まなければならない。今後、本イニシアティブでは、数理科学界と産業界のコミュニケーションの場の提供、数理活用の活動を拡大するために必要な施策を通して、産学連携のさらなる高度化に挑戦する。
■ 講演Ⅰ「DX社会の基盤技術~数理を活用した産学連携について」
小谷元子 東北大学理事副学長/総合科学技術・イノベーション会議員
各国政府による数理科学への重点支援・人材囲い込みの動きが活発化している。欧米中などは、数理科学と実社会をつなぐ研究や、数理人材の育成を積極的に行っており、数理科学と人文社会科学の連携による価値創造の場を充実させている。一方、日本の産学連携の取り組みは小規模でまだ十分とはいえない。本イニシアティブでは、相談窓口の設置や、産業界のニーズに合わせたさまざまな数理活用の産学連携プログラムを検討したい。数学界からは、全国の数理系機関が参画し、日本数学界や日本応用数理学会が後援する。実績のある研究者を中心に多くの数学者が対応する。
■ 講演Ⅱ「数学的証明の社会・産業応用~ICTシステムの信頼性保証と、
Science of Sciencesとしての社会貢献」
数学的証明を行う形式検証は、テストと比べて保証の網羅性・数学的厳密性の高い形式手法であり、ICTシステムの信頼性保証・社会受容に優れる。「自動運転車の安全性」のような論理的モデリングをするのが困難で複雑な情報システムにおいても、論理的構造の切り出しや、安全性論証の論理的組み上げによるアプローチが試みられている。現代数学者は抽象性や一般性を追求しており、数学は“異分野協働のインタプリタ”としての役割を担う。数学は "Science of Sciences" である。理論的シーズと応用上ニーズのマッチングにおいては、数学側が応用側に飛び込み、ニーズを理解することが重要である。
【産業技術本部】